金融機関の実態を明らかにしなければ経済改革は不可能だし、この改革に手をつけると、改革者は生命の危険をおかすことになる。JICA(国際協力機構)はウクライナの要請に応じて、日本銀行で国際局審議役などを務め、IMF(国際通貨基金)にも在籍経験のある田中克氏をアドバイザーとして派遣している。この田中氏に会って、改革の難しさを詳しく聞かせていただいた。
ウクライナではチェルノブイリにも行った。1986年の原子炉事故は、世界を震撼させた。これに対する対応の遅さは、社会主義の隠蔽体質のせいだと、世界は批判した。
しかし、2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故の際、日本はチェルノブイリ以上の対応が取れていただろうか。日本はソ連の対応を批判したが、この事件から本当の意味では学んでいなかったのである。
この訪問ではポロシェンコ大統領に会えた。大統領とは2016年1月のダボス会議のクローズド・セッションで会っている。その時、大統領はロシアがいかにウクライナに兵士を送り込んでいるかを雄弁に語った。
「ヨーロッパのリーダーたちは、いやいや、それはウクライナだけの問題ではない、ヨーロッパ全体の問題だと励まし、私も、いや、力による現状変更はヨーロッパで起こっているだけではない、南シナ海でも起こっている、したがってウクライナの問題は世界の民主主義国家すべてについての問題だ」と述べた。
元ヘビー級チャンピオン、キエフ市長に見る愛国心
こういう状況で日本はウクライナに対して何ができるだろうか。ウクライナが求めているのはたとえば武器支援であるが、これはもちろんできない。あとは、ロシアに対する制裁やウクライナに対する経済支援がある。ロシアに対する制裁は、領土問題の解決をめざす日本としては、あまり踏み込めない。
そうなると、結局経済支援しかない。2014年になってから、日本は1500億円を超える借款を供与している。その最大の事業は、ボルトニッチ下水処理場の改修工事である。これは、1964年にできた大きな処理場である。
しかし社会主義にはメンテナンスという概念がないのだろうか、老朽化して一部施設が使い物にならなくなっている。政治体制がどうなっても、この改修は必要で、重要な支援だと思う。ポロシェンコ大統領も大いに感謝してくれた。そして、これらの支援を着実に実行していくため、キエフにJICA事務所を作ると言ったら、大変に喜んでくれた。
そのほか、キエフのビタリ・クリチコ市長にも会えた。日本でも会っているので、2度目である。クリチコ市長は、元ボクシングのヘビー級チャンピオンで、身長2メートル、通算戦績は47戦45勝(41KO)2敗で、勝率はモハメド・アリよりすごい。2004年には、オレンジ革命支持を表明するため、オレンジの布を巻いてリングにあがったという。