最初の入植者の子孫は冷房のない別荘で雑魚寝

義母が50年以上仲良くしているRさんは、ナンタケット島の最初の入植者を先祖に持つオールドマネーだ。ナンタケット島に推定価格50億円以上の土地を所有しているだけでなく、弁護士の夫の収入と親から受け継いだ資産を持っている。

だが、彼女が島に別荘として持っているのは、17世紀に漁師だった先祖が建てた地続きの小屋2つだけなのだ。小屋とはいえ、ナンタケット島でも特に地価が高い場所にあり、写真集に必ず登場するほど有名な歴史的建築物である。だから初めて中に招待していただいたときには、ドキドキした。

驚いたのは、(都市部のアパートを除く)アメリカの普通の家にある皿洗い機や電子レンジといった電化製品がまったくなかったことだ。冷房もない。夏になると、夫妻の5人の子どもたちとその伴侶や子どもたちがやってきて、2つの小屋にぎゅうぎゅう詰めになって雑魚寝すると言う。

「この家では、夜になると、台所からときどき音がするのよ」とRさんは話す。ご先祖のジョージという幽霊が夜中にサンドイッチを作っているのだそうだ。「あまりにも居心地がいいから、死んでいることを忘れちゃうのよね」といたずらっぽい笑顔を浮かべて語った。代々伝わるこの小屋を、幽霊も含めて次の世代にそのまま受け渡したいとRさんは考えていた。

推定50億円以上の土地を非営利団体に売却したワケ

Rさんが心配していたのは推定50億円以上の土地の将来だ。この土地は17世紀からずっと自然のままで家族に引き継がれてきたのだが、夫婦には私と同年代の子どもが5人もいる。そのまま土地を遺すと、5人の間でその処置を巡って争いが起こる可能性があった。

そこで自分たちが生きているうちに土地を売却して売上金を平等に分け与えることにした。推定価格で購入することを申し込んだ富豪がいたが、Rさんは躊躇した。Rさんの家族は代々この土地を自然のままに保ち、一般人が散歩してもいいように解放してきた。だが、富豪は家のセキュリティの事情から立ち入り禁止にしてしまうということだ。

時間をかけて考慮したRさんは自分が満足できる解決策にたどり着いた。推定価格の10分の1以下の価格で、土地を永久に保護して住民に開放してくれる非営利団体に売却した。彼女は、子どもたちに沢山お金を与えるよりも、ナンタケット島の美しさを守り、人々と分かち合い続けることを優先したのだ。

写真提供=筆者
美しい庭に囲まれているナンタケット島の家