最低賃金の急激な引き上げで起きた「人減らし」
政権発足後、所得主導成長の実現に向けた政策(公共部門を中心にした雇用創出や非正規職の正規職への転換、最低賃金や基礎老齢年金の引き上げなど)が優先的に実施された。最低賃金は18年に前年比16.4%、19年に同10.9%引き上げられた。しかし、この急激な引き上げに伴い、卸・小売・飲食業界を中心に人減らしの動きが広がった。
また18年に入ると、朴政権下で増加した建設投資が減少に転じ、設備投資が前年に急増した反動で落ち込んだ。さらに米中対立の影響と半導体需要の一服により、秋口から輸出が減速し、製造業ではリストラが進められた。
景気が悪化したため、文政権は19年から所得主導成長に関連した政策の推進を抑制し、設備投資の活性化や製造業の再生、システム半導体や電気自動車・同電池などの次世代成長産業の育成に注力するようになった。
20年に入ると、新型コロナ対策に追われるようになった。7月には、経済の立て直しと次世代成長産業の育成を目的にした「コリアンニューディール」が発表された。①デジタルニューディール(5G ネットワークやAIの強化、デジタル化の推進など)、②グリーンニューディール(環境に優しいモビリティやエネルギーの実現など)、③より強固なセーフティネットの3本柱から構成され、25年までの目標と投資計画が盛り込まれた。他方、韓国銀行も政策金利を3月、5月に引き下げ、過去最低の0.5%にした。
こうした経済対策に加えて、輸出が持ち直したことにより、実質GDP成長率は20年のマイナス0.9%から21年に4.0%へ上昇した。主要輸出品目の半導体は、最大の輸出先である中国の景気回復とコロナ禍での世界的なデータ通信量の急増を背景に、20年後半から増勢が強まり、21年は前年比29.0%増となった。
経済成長率も雇用者増加数も前政権以下
21年までの文政権の実績をみると、年平均成長率は前政権の3.1%を下回る2.3%、雇用者増加数(対前年)の年平均も前政権期の35万4000人より少ない17万3000人であった。
前政権の実績を下回ったのは新型コロナ感染拡大の影響(コロナショック)が大きいとはいえ、雇用に関しては最低賃金の大幅引き上げの影響もある。
18年の雇用者増加数が9万7000人と(図表2)、16年、17年を大きく下回ったのは、卸・小売・飲食業界で12万人近く減少したことによるところが大きい。なお、20年はコロナショックで減少し、21年はその反動で増加した。
文政権下ではまた、短時間(週36時間労働未満)労働者の割合が上昇した。公共部門で雇用が増加したものの、その多くが短時間雇用であったことが影響している。若年層の就職難も続いており、総じて雇用環境は量、質ともに悪化したといえる。