保護施設へ持ち込まれるネコの数は減っている
2020年度(2020年4月1日から2021年3月31日)の殺処分数は、犬4059匹、猫1万9705匹(環境省発表)。その状況を詳しくみると、行政の保護施設から飼育を希望する人に「譲渡」、あるいは飼い主に「返還」する数は、5年前の2万6886匹に対して、2020年度は2万5385匹と、ほぼ変わらない。しかし、「猫の引取り数」(保護施設へ持ち込まれた数)は5年前が7万2624匹だが、2020年度の引取り数は4万4798匹と、大きく減っている。
ということは殺処分数の減少は、こうした不妊去勢手術を地道に行い、野良猫そのものの数が少しずつ減ってきたからだと考えられる。不妊去勢手術を行えば、その猫は一代限りの命だからだ。
野良猫に不妊去勢手術を行い、元の場所に戻すやり方は「TNR」と呼ばれている。野良猫を捕獲(Trap)して、不妊去勢手術(Neuter)を行い、元の場所に戻す(Return)活動だ。
「この茨城のクリニックでは“手術をした猫の目印”として、すべての猫の耳先をV字にカットします。誰もがわかる目印がないと、手術済みの猫がまた捕まって麻酔をかけられ、最悪の場合、メスでは再度おなかを開ける手術になってしまうこともあるんです。耳先が桜の花びらのようにカットされているので、近年では手術済みの猫たちを『さくらねこ』と呼んで、こういった活動を知らない地域の人たちにも説明します」(齊藤獣医師)
TNRのためには「費用」と「獣医師の確保」が課題
不妊去勢手術を受けることは、猫にとってのメリットもある。
「生殖行為やオス同士の血がにじむ喧嘩で、猫同士がエイズや白血病を感染させることがあります。去勢手術をすると、繁殖のためオスが出歩くこともなくなりますから、病気の感染リスクも減りますし、あまり喧嘩もしなくなるんですよ。猫にとって心地よい生活が続くと思います」(同)
ただし、TNRのためには「費用」と「獣医師の確保」が課題になる。
費用については、多くの自治体が野良猫に対する不妊去勢手術の費用を助成している。例えば茨城県ではオス7000円、メス1万円の助成をしている。通常の飼い猫の場合は数万円だが、飼い主のいない猫には助成金の枠内で手術を請け負うという獣医師も少なくない。各自治体の助成金でまかなえれば、捕獲したボランティアが手術代を負担する必要はなくなる。
しかし野良猫の手術は、獣医師であれば誰でもいいというわけでなく、“早く正確にこなせる腕”も必要だ。