車の後頭部座席からは、ミャーミャーの大合唱

朝9時からスタートした44頭の野良猫の不妊去勢手術は、17時に終了した。

その時間になると、野良猫を預けたボランティアが車で猫を引き取りにくる。その一人、60代後半の女性にインタビューした。彼女は乗ってきた車に手術を終えた猫が入るケージをどんどん積んでいく。「すごい数ですね」と話しかけると、「他の人が捕まえた分も私がまとめて引き取りにきたんですよ」と説明してくれた。

「自宅の近くではしょっちゅう子猫が車に轢かれていてね。この時期になるとオスがメスを探して動き始めるから、その前に少しでも手術を進めようと思って」

車の後頭部座席からは、ミャーミャーの大合唱だ。「ちょっと待ってねー」と、女性は猫に話しかけながらケージを整頓する。全部で20ケージはあろうか。まだ入りきらないケージがあるので今度は助手席にも積んでいく。

女性が運転席に座るとバックが見えないのではないかと思うほど、車の中は猫が入っているケージでぱんぱんになった。「安全運転で帰ります」と女性は言って、去っていく。

野良猫が子猫を産むと「どうしよう」と悩み始める

手術を行う一室を管理するボランティアの長谷川道子氏は「戦中戦後を生き抜いてきた高齢者の方は野良猫をみると、かわいそうとご飯をあげたくなってしまうみたいです」と説明する。

手術前に毛を剃るボランティア
手術前に毛を剃るボランティア(撮影=笹井恵里子)

「でも自分が餌をあげていた野良猫が子猫を産むと『どうしよう』と悩み始めるんです。それでこちらが手術の必要性や、補助を使えば金銭的な負担のないことを説明します。捕獲の仕方を教えると、高齢者でもちゃんと捕まえて、ケージに入れて猫を連れてきてくれます。自分が歳だし、猫より先に死んだら世話ができないから、これ以上猫が増えないように、という思いでやっているみたいですね」

TNRは良い方法のように感じるが、青山獣医師は「いずれは“リターン”をなくしたい」と話す。

「殺処分はもちろん、TNRがない世界になるといいな、と思います。全ての猫が人に譲渡できたらいいですよね。それが難しければ、ほとんど医療を受けられない野良猫でなく、みんなから見守られる『地域猫』でいてほしい」