10年間で4億円超を投入も、科学的根拠が弱い
環境省は2018年7月、鹿児島県・奄美大島で野生化した猫(=ノネコ)を年間300匹捕獲する目標を掲げて「ノネコ管理計画」をスタートさせた。計画は2027年度までの10年間行われる。つまり10年で3000匹の猫を捕獲するということだ。捕獲された猫は、奄美大島にある「奄美ノネコセンター」に収容され、飼い主を募り、1週間で引き取り手がいなければ「安楽死(殺処分)」が認められている。
私は現地や計画にまつわる関係者に取材を進め、『週刊文春』で2019年、「奄美大島「世界遺産」ほしさに猫3千匹殺処分計画」(2019年4月18日号)と題した記事を発表した。その後も「文春オンライン」で「世界遺産のために猫を殺すのか」などを執筆した。
「猫の命を守る」という視点からのみ記事を出してきたのではない。2019年度の予算案をベースにすると、ノネコ管理計画の遂行には10年間で4億円を超える多額の税金が投入されることになり、その計画を実行するだけの科学的根拠が弱いと考えられたため、取材執筆を進めた。そして今回は、やはりこのノネコ管理計画そのものの存在意義、また計画がスタートして3年半経過した今も、遂行の仕方が当初と変わらず強引である点を疑問に思い、記事を書いている。
アマミノクロウサギは減るどころか、増えている
計画の概要と、これまで私が執筆した記事の内容について大まかに説明する。
環境省は「ノネコ管理計画」をスタートさせた理由として、「近年、ノネコが国内希少野生動物種であるケナガネズミ、アマミノトゲネズミ、アマミノクロウサギなどを捕食していることが自動撮影カメラや糞分析により確認されるなど、生態系への被害が明らかになっているため」と応えている。たしかにアマミノクロウサギは環境省レッドリストに絶滅危惧種として記載され、奄美大島と徳之島にしか生息しない国内希少の野生動物だ。
だが、環境省が発表したアマミノクロウサギの死因調査をみると、犬や猫に捕食されたと断定されたものはわずか一割で、原因が判明している死因では交通事故が最多となっている。しかもアマミノクロウサギの数は減るどころか、実際には近年、増えていた。私もたった一晩、森に出かけただけで目にすることができた。
3年前、「アマミノクロウサギが増えているのに、猫を捕獲する必要があるのか?」という私の問い対し、環境省は「アマミノクロウサギがノネコに捕食されているのは間違いありません。危険があれば科学的な根拠が不十分でも、早めに対策をするというのが保全生物学の鉄則です」と回答した。