日本では年間2万匹を超える犬や猫が殺処分されている。殺処分を減らすためには「不妊去勢手術」を行うしかない。その手術は過酷だ。命を救うはずの獣医師は、赤ちゃんを宿した子宮を次々と摘出しなければいけない。現場で奮闘する人たちの声を紹介する――。(第2回)
「私たちだって猫を殺しているんです」
春になると不妊去勢手術が憂鬱になると、齊藤朋子獣医師から聞いた。ほぼすべてのメス猫が子宮に赤ちゃんを宿しているからだ。
「ごめんね」
齊藤獣医師は何度もそう言って、赤ちゃんが入ったメス猫の子宮を摘出する。1日を終える頃、バケツが堕胎した子宮でいっぱいになり、それは持ち帰ってお寺に供養してもらうのだという。
「時には明日生まれるんじゃないかというほど育っている子(猫)がいる子宮を取り出す。その時、多くの獣医師が悩みます。自分が結婚して赤ちゃんを宿している女性獣医師であれば、なおのことつらいです。私もたくさん泣いてきました。殺処分を防ぐための手術なのに、私たちだって猫を殺しているんです。つらい気持ちは今も変わりません。でも、自分が手術の手を止めないことで、未来に救われる猫たちがいると信じています」
「誰がお金を出すの?」と不思議がる獣医師もいる
齊藤獣医師は「不妊去勢手術をしないがために、野良猫が殺処分されているという現状を知らない人もいるでしょう」と、続ける。
「誰が野良猫にしたのか。誰が繁殖させたのかと突き詰めると、それは人間です。生まれてくる命を殺さないためには今生きている犬や猫に不妊去勢手術をするしかありません。けれども獣医師のなかには『野良猫の不妊去勢手術をするなんて、誰がつかまえるの? 誰がお金を出すの? どうやって麻酔をかけるの?』とやり方さえ知らない人もいます。
また、不妊去勢手術を知っていても、それを犬や猫にするのはかわいそうという人もいます。自然に任せたほうがいい、と。手術に反対する気持ちも、わからなくはありません。でもその結果、たくさんの子猫が生まれて、最終的には殺処分される。私は殺処分ゼロの世の中にしたい。だからこの手術を続けます」