小さな背丈や細い手足が想像させるブミちゃんの生活

そんなブミちゃんだが、彼女自身は決して美味しいものをたらふく食べられるような生活をしてきたわけではなかった。

彼女の地元・ダージリンは、ヒマラヤ山脈のすぐふもとにある。近くにはジャングルのような森もあって、そこでなっていたアボカドを食べ物だと知らず、小さいころにはきょうだいで蹴って遊んでいたらしい。だが、自然が多いことは未発展ということでもある。

ブミちゃんは小さな村で育ち、毎朝水を汲みに行き、きょうだいの面倒を見たり家事をしたりという生活だったそうだ。食べるものがなくて腹ぺこで一日を過ごすこともあったという話は、彼女の小さな背丈やか細い手足をもってするとリアリティーを帯びて聞こえ、胸がちくっとした。また、学校にも満足に行けなかったということも、本人は言わずとも、ときに垣間見えてしまうのだ。

「3分の1」がわかるのは常識だと思っていた

たとえば、もともと6人分の量を作るレシピがあったときに、「今日は2人分だけでいいよ」つまり3分の1の量で作ってほしい、と母が言ったとき。

「マダムごめんなさい、3分の1って、どういうこと?」

英語の意味がわからなかったということではなく、「3分の1」という分数の概念がわからない。そうブミちゃんは言ったのだ。

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ハッとした。分数なんていう、あたりまえのように思える概念。だが、わたしがそれを「あたりまえ」と呼べるのは、学んだからだ。常識は、常識なのではなくて、常識と呼べる環境にいてこそ、さらにまわりも共通してそんな泡のなかにいてはじめて成り立つのだ。

そしてまた、常識と呼んでしまうようなものの多くは、若いころや幼いころに吸収する。小学校低学年で学んだ分数を、知識ではなく常識だと思ってしまうのは、そのころでないと身につかないからなのかもしれない。だから、母が計量カップで「ここまでが3分の1だよ」と見せても、ブミちゃんはすこし困ったように口をぎゅっとつぐむだけだった。