経済のグローバル化は中流階層を解体した。これから日本はどうなるのか。作家の佐藤優さんは「東京に住むのは、富裕層と、その富裕層の生活を支えるエッセンシャルワーカーになっていく」という。社会学者の橋爪大三郎さんとの対談をお届けしよう——。

※本稿は、橋爪大三郎・佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書)の一部を再編集したものです。

東京タワー近辺の夜景
写真=iStock.com/Eakkawatna
※写真はイメージです

中流の解体はグローバル化の副作用

【橋爪】日本でもアメリカでも、ほぼすべての先進国で起こったのは、中流階層の解体です。これは、経済のグローバル化の副作用なのです。

【佐藤】そのとおりですね。

【橋爪】中流階層とはどういうものだったか。製造業中心の大企業が経済を牽引していた。大企業は競争力があって、国内市場を支配できます。本社にはホワイトカラー、現場にはブルーカラーがいる。ブルーカラーは、中小企業のブルーカラーよりも生産性が高い。

【佐藤】確かに。

【橋爪】大企業は利益をえる。本社に集まっているホワイトカラーが利益を分け合う。ブルーカラーは労働組合に集まって、賃上げを要求する。それに応える余力が大企業にはあった。だから、ホワイトカラーもブルーカラーも、子どもを大学に行かせたし、郊外に一戸建て住宅をもてた。中流階層になれた。そのライフスタイルが広まった。アメリカの繁栄は1950年代に、日本は1970年代から90年代に、ピークを迎えました。

大企業のホワイトカラーもやがて一掃される

【橋爪】企業が生産拠点を海外に移し始めると、勤労者は打撃を受けます。まずブルーカラーが失職する。ホワイトカラーもリストラされる。日本でもこれが起こった。小泉改革は、正社員を守ろうとした。そこで、派遣や非正規を増やし、人件費を圧縮しました。若い人びとはしわ寄せで、親並みの生活が望めない、結婚できない状態になった。アメリカやヨーロッパも同様です。

この流れは、なお進むと思います。大企業のホワイトカラーもやがて一掃されます。

この流れは、IT革命とシンクロしています。

IT革命の本質は何か。つぎのように考えられます。市場では、まず第一段階として、契約をする。第二段階として、契約を実行する。第一段階は情報です。情報なので、コンピュータに乗りやすい。昔は人間が対面で交渉し、本社もあった。そんなものが必要か、という話になるのです。

第二段階では、実物が動きます。大量のモノと人が動きます。これを広域コントロールして最適化するのは、コンピュータが得意です。ばらばらに動かすより、マーケット横断的にプラットホームをつくれば合理的です。そこで会社ごとの物流がやせ細っていく。これがいま起こっていること、Amazonというものだと思います。日本には宅配三社があって、コンビニを基点にしています。Amazonのほうが進んでいます。進化形ですね。そして、国際的です。途上国でも、トラックさえあればAmazonはできる。