アメリカ一極構造が終わり、米中対立が続いている。日本はどんな外交戦略を採っているのか。作家の佐藤優さんは「2021年4月の日米首脳会談には、日本外交の方向転換が表れている」という。社会学者の橋爪大三郎さんとの対談をお届けしよう——。

※本稿は、橋爪大三郎・佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書)の一部を再編集したものです。

日本の国旗
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「米中対立」はカントリーリスクの概念に収まらない

【橋爪】20世紀までは多極化していなかった。アメリカが世界の中心で、グローバル化を仕切っていた。植民地時代とそう変わらないやり方です。第三世界の国々が独立し、発言権を手にした。でもアメリカは、覇権国のままだった。

そうこうするうち、冷戦が終わり、世界の様子が変わってきた。中国、インドがアメリカと肩を並べるまでになった。世界経済は新しい段階に入ったのです。

これまでも、カントリーリスクの概念があった。投資してもいいが、急に独裁政権になったり、予測できないことが起こりそうで、二の足を踏む。経済の外側から、予測できない要因が飛び込んでくるという考え方が、なくはなかった。

でもいま、中国がアメリカと対立している状況は、カントリーリスクの概念に収まらない。覇権国であるアメリカと違った価値観や行動様式をそなえた、もうひとつの超大国が存在していいのか、存在したらどうなるのか、という問題です。ここが新しい。

このように頭を切り替えているリーダーがいるか。アメリカではそろそろ出てきたけれど、日本にはまだあんまりいない。困ったものです。

「別の理想型」として勃興している中国

【佐藤】まず、経済のグローバル化の中で生じてきた「カントリーリスク」という概念が、近年になって無効化しつつあるというのは、そのとおりだと思います。

さらに国内経済に目を向けるならば、ユルゲン・ハーバーマスという哲学者たちが唱えた「後期資本主義」という考え方があります。「国家独占資本主義」と呼んでもいいのですが、これは、国家が市場や市民社会に介入することで成立するという、資本主義の一つの段階を示しています。ひとことでいえば福祉国家化ですね。しかし、そんな後期資本主義的な国内経済体制が、経済のグローバル化によってほぼ不要となった。グローバル資本の発展は、国家主導で労働者に資源を再分配する必要性を薄めるからです。

さて、こうしたグローバル経済の流れのなかで、いつの間にか台頭していたのが中国です。

少し前まではアメリカや日本に追いつこうとしているに過ぎないと思われていた中国が、いわば「別の理想型」として勃興している。それが奇しくも見える化したのは、新型コロナウイルスのパンデミックだと思います。感染が世界規模になるにつれてグローバリゼーションに歯止めがかかり始め、ふたたび国境の壁が高くなりました。そんな中、中国は厳しい監視体制を敷いて初期の感染拡大をいち早く封じ込め、経済成長率も2.4%にまで回復させた。今まではカントリーリスクが大きいと思われていた中国のような国が、というのが注目すべき点です。橋爪先生がおっしゃるとおり、これは従来のグローバル経済とは違う、中国を1つの極とする多極化の時代の到来と見ていいでしょう。