日本は明らかに抜け駆けを始めている

【橋爪】異常、ですか?

【佐藤】今までに例がないという意味で異常ということです。要するに、日本は日米同盟も欧州との関係も重視するという姿勢を見せながら、明らかに抜け駆けを始めています。対中国に関して欧米と100%協調しているわけではないという点で、抜け駆けを狙っていますね。また、対ロシアでも、日本が独自路線を取り始めたことが見て取れます。

先の日米首脳会談に先駆けた2021年4月中旬、アメリカがロシアのサイバー攻撃などを非難したことをきっかけに米ロ関係は急激に悪化し、両国間で外交官の追放合戦が繰り広げられました。その矢先に行なわれた日米首脳会談で、アメリカはロシアについても言及したかったのですが、実際にはいっさい触れずに終わりました。なぜなら、日本が「ロシアにはひとことも言及しない」ということで強く米側に働きかけ、首脳会談のアジェンダを設定したからです。

このように、中国についてもロシアについても、日本外交は、少しずつ独自路線を歩みだしている。これは、今までとはかなり様相の異なる国際的なゲームチェンジが起こっているということを、意外と日本の政治エリートはよくわかっているからだと私は見ているんです。

【橋爪】わかってるかもしれない。でも、先の先まで、国益を考えているのか。ただ中国がらみの利益にこだわっているだけにも聞こえます。

【佐藤】中国からの利益を失いたくないというよりも、勢力均衡を意識していると思いますね。

【橋爪】勢力均衡。それは軍事や文明に関わることなので、あとで議論しましょう。

中国とロシアの国旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
※写真はイメージです

「西側のルールに乗っかる」ことを期待されていた

【橋爪】グローバル経済があるところまで進むと、センターがいくつもできて多極化するのではないか。それが何を意味するか、考えてみます。

グローバル経済とは、資本と技術と情報が、一国の範囲を超えて自由に移動することです。国民経済の枠をはみ出ます。そのほうが儲かるし、ビジネスチャンスも拡がる。

ただ、裏を返すと、そんななかでも移動しにくいものがある。労働力です。

人びとは、それぞれの地域に根づいて、ローカルコミュニティで生きている。だから移動しにくい。そのため賃金も低い。そこで彼らを現地で雇用すると、先進国に生産基地を置くより儲かるわけです。これが世界中で、過去数十年、ずーっと起こっている。

この生産基地として、中国は適当なのか。

80年代に、改革開放が軌道に乗り始めます。それをみて西側諸国は、アメリカもヨーロッパも日本も、中国に資本・技術・情報を提供した。そして生産基地にし、利益を山分けにした。やがて中国は、西側のルールに乗っかるだろうと期待もした。