和食とインド料理に共通する意外なメニュー

インド人のメイドさんだったら全部カレー味になっちゃいそう、なんて心配はうちにはまったくなかった。いままで作ったことがない料理でも、勉強熱心なブミちゃんは、母が教えるレシピを丁寧にノートに記録して、すぐに美味しく作る方法を習得してしまうのだ。

毎日毎日、家に帰ってくるとおいしい薄味の和食を食べられること、それだけで母国から離れて暮らす心労はかなり軽減されているように感じた。あたたかいお味噌汁やたくさんの家庭料理が並ぶ食卓を家族で囲むと、インドで暮らしているなんて忘れてしまうくらいだった。

そんなブミちゃんの手料理のなかでも、特にわたしのお気に入りなのは、野菜のかき揚げだ。

にんじんや玉ねぎ、コーンなどを二度揚げして、日本でも食べたことのないくらいそとがカリッカリ、なかはジュワッと甘い、最高のかき揚げをブミちゃんは作ってくれる。デリーの数少ない日本料理店や、高級ホテルの和食レストランのかき揚げなんかよりもずっと美味しいね、と言って、我が家自慢の一品でもあった。なぜそんなに上手に作れるのか不思議に思っていると、インドにも野菜天ぷらに似た「パコラ(Pakora)」という料理があるんだとか。和食とインド料理なんて正反対に思えるのに、似た食材を使うとやっぱり似た料理にたどりつくらしい。

インド北東部の食文化は中華に近いネパール系

それにしても、普段あんな濃い味のインド料理に慣れていたら、あっさりとした日本食を作るのは難しくないんだろうか。それに対して、ブミちゃんからは意外な返答が返ってきた。

「むしろ日本料理のほうが簡単よ。インドは何十種類とあるスパイスをいい具合に混ぜなくちゃいけないけど、和食だと基本的な味付けは全部一緒だから」

確かに、言われてみればそうだ。日本の調味料「さしすせそ」も西洋人からするとだいぶ複雑だろうなと思っていたけど、インド料理に比べたらよっぽどマシだ。

だが、ブミちゃんは、わたしたちがインド料理と言われて想像するような、バターチキンやナンなどは普段は食べないという。彼女はインド北東部の出身、食文化もネパール系で、むしろ中華に近いような食事らしい。

たとえば、「モモ(Momo)」と呼ばれるネパール風の餃子をよく作ってくれた。ブミちゃんは、その皮を、小麦粉を練って一から作ってくれ、ステンレス製の蒸し器で丁寧に蒸していく。できあがってふたを開けると、ほんのりと甘い皮のにおいがして、あたたかい蒸気がふわっと広がり顔を包む。ひとつひとつ器用に形作られた半月状のモモがぎっしりと詰まった様子には、思わず「わぁ」と声をあげてしまう。それをまだ冷めないうちに口に入れると、手作りの皮のやさしい味ともちもちの食感に舌が感嘆をあげる。ブミちゃんのおかげで、毎日の食事がご馳走だ。