5類に引き下げたところで医療難民は減らない
次に、新型コロナを法的に季節性インフルエンザと同等の扱いにすれば、広く一般の診療所でも診察できるようになるのだから医療難民が減らせるのではないか、という議論について考えてみたい。それにはまず現状ではどうなっているのかを知る必要がある。
多くの人が誤解している可能性があるが、現在でも一般の診療所で新型コロナの患者さんの診療をすることは法的には問題ない。わざわざ5類に格下げしなくとも、現行の位置づけのまま街場のすべての診療所で診断・治療して構わないのだ。だが現実は違う。それはなぜか。
それは医療機関側の事情なのだ。ご存じの通り新型コロナは感染力が非常に強い。もし感染者が一般診療所の待合室で一定時間過ごしてしまうと、他の感染症以外の患者さんに容易に感染させてしまう。入り口や待合室が複数あるとか、動線が分離できる診療所でないと、感染疑いの患者さんを受け入れることは困難、いや不可能なのだ。先述の医師は「今までは完全に動線分離していたが、もう分離しきれない。インフルエンザと同じように診療するように変えた。おっかなびっくりやっている」と言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか……?
コロナ以降に「発熱者お断り」に変えた診療所はインフルエンザにはどう対応していたのか?
そもそも5類であるインフルエンザであっても、本来なら入り口、受付、待合室は完全に分離しなければならないはずだ。だがコロナ以前を思い出してみてほしい。感染症対策に意識の高い院長の経営する診療所は分離していただろうが、多くの診療所では厳密に分離していなかったはずだ。
少し意地悪なことを言わせてもらえば、コロナ前はインフルエンザや発熱者を普通に診ていたのに、コロナ以降に「発熱者お断り」と急に変えた診療所は、コロナ以前はインフルエンザ疑いの患者さんを厳密に隔離していなかったということなのだ。
皆さんの中にも「新型コロナはそろそろ季節性インフルエンザのように街の診療所で普通に診療してくれればいいじゃないか。もう5類でいいよね」と思う方もおられるかもしれない。だがもし5類となったら、待合室で隣に座っている人がおでこに冷えピタを貼って咳込んでいる、あのコロナ以前の冬の待合室が再現されることになるのだ。「今すぐ5類に」と言っている方々は、それをまったく気にもせず許容できると言うのだろうか。
おそらく許容できると言う人は皆無だろう。では医療難民についてはどのような解決方法があるだろうか。「発熱者お断り」としている知人の医師は、感染急拡大のあおりを受けて一般の受診者が激減、連日ヒマでしょうがないと言っている。発熱外来のある診療所は逼迫している一方で、発熱外来を行っていない診療所は閑古鳥というアンバランスが生じているのだ。
これらの診療所に手伝ってもらわない手はない。後者のような診療所を地域で行政と医師会が抽出し、輪番で一般患者さんを診療せずに発熱外来を行う担当日を作って回してもらえないだろうか。これなら動線分離できない構造の診療所でも発熱者の診療は可能だ。5類にして待合室で発熱者をごちゃ混ぜにするより、よっぽど安全だし機動的・効果的ではないか。
「今すぐ5類に」の人たちに共通しているのは、「新型コロナとくにオミクロンは普通のカゼと同じだ。そのようなものの感染者数を数えたり、行動制限をするのはナンセンス。メリットよりもデメリットの方が大きい」という理屈だ。
さらにウイルス感染症が終息するには集団免疫が必要。感染者を抑えるよりも、むしろより多くの人が感染することによって多くの人たちが免疫を持つことでしか終息は期待できない。そのような意見に賛同する人も少なくない。すなわち、その過程で生ずる「多少の犠牲はやむを得ない」という主張もそこには垣間見える。