次の変異株の重症化率が高かったらどうするのか

そして「今すぐ5類に」という人たちはオミクロンを最後に普通のカゼになる、これでコロナ禍は終息する、という希望的結末を大前提としている。ウイルスが今後も変異を続けることを否定しているわけではなさそうだが、感染力は強くとも重症化はさせないウイルスが主流となってwithコロナの時代が来るということを信じているのだ。

もちろん私だって一日も早くそのような世界になることを待ち望んでいる。だがその結末が必ず来るということを明確な証拠を持って断言できる人はいないはずだ。仮に断言する人がいたとして、その大前提が破綻しても何ら責任を負うことはないだろう。

このような希望的結末のもと、拙速に新型コロナを季節性インフルエンザと同程度の位置づけにしてしまって「オミクロンの次」が来た場合、そしてその新たな変異株がオミクロンのような“軽い”ものではなかった場合、またその位置づけを元に戻すのか。

また今の状況で季節性インフルエンザと同等の扱いとしてしまうと、検査体制は今よりもさらに不十分なものとなる。新たな変異株の出現さえ見逃すことになるだろう。「今すぐ5類に」の人たちの口から、このような事態への対処法は発せられているだろうか。

基礎疾患なし20歳代の女性が肺炎に

そもそも「オミクロンが軽い」という昨今振りまかれているウワサ自体が間違いだ。確かに第5波のときのような急激な呼吸困難、肺炎といった症状を呈する患者さんは多くない。肺炎の有無で重症か否かを決める現在の分類では「軽症」に入る人が多いだろう。とはいえ、39度超えは珍しくない。ものを飲み込みたくないほどの咽頭痛もザラだ。

さらに先日、20歳代で基礎疾患なしのコロナ陽性者の女性が1週間たっても解熱しないためCT検査を行ったところ肺炎であった。一人暮らしで食料調達も困難、咳、熱が出続けているが、酸素投与レベルでないことから入院適応外、発症1週間以上たっていることからホテル療養も適応外と判断された(その数日後やっと入院が決まった)。

長年インフルエンザの診療をしてきた私だがこのような経験はしたことはない。やはり現時点で新型コロナとインフルエンザを同じとするのは乱暴だ。

「オミクロンの特性に応じた対応に変えるべき」などと医師でもない評論家がテレビでまことしやかに言っているのも目にした。だが実は外来で新型コロナと診断した患者さんがデルタなのかオミクロンなのか、現場の私たちにすら知らされていない。

現在では9割以上がオミクロンに置き換わっている(らしい)という、一般の方々と同じ情報しか持たないまま治療にあたっているのだ。つまり実際に現場で日々感染者と接している私たちでさえ、「オミクロンの特性」を完全に掴みきれているとは言えないのだ。この状況で5類、さらに検査せずとも診断してよいなどとなったら、せっかくの新薬を適切に使うことさえできなくなるだろう。後遺症さえうやむやとなる。これが医療現場の現実だ。無責任な発信は厳に慎んでいただきたい。