コロナ患者でなくても入院は困難

まず、保健所を通さずに医師同士で直接入院交渉できるようにすべきだとの意見。確かにこれには一理ある。診断した診療所医師が自分で患者さんの経過を観察し、容体に変化を来した場合は、機を逸することなく高次医療機関に紹介する、これは通常診療ではごく当然に行われているやり方だ。それが可能であれば一番いいに決まっている。

しかし現在のように感染急拡大の局面で入院病床が逼迫している状況では、医師が直接高次医療機関に電話で交渉に臨めばスムーズに入院できるなどということはない。

先日も発熱外来を受診した高齢者を精査したところ、新型コロナ検査は陰性だったものの他の緊急入院を要する疾患が見つかったのだが、周辺の病院はどこに連絡しても満床につぐ満床。結局5カ所に断られ、受け入れ可能な病院にたどり着くまで優に1時間を要した。入院病床が逼迫している場合には、新型コロナでなくとも入院困難なのだ。

診療の片手間に転院先を探すのは無理

現場の医師が患者さんの転送の段取りに手を取られていると、その他の患者さんの診療が完全にストップしてしまう。これも現場では大きな悩みのタネだ。その間に次から次に訪れる患者さんのカルテは、うず高く積み上げられることになる。このことは臨床現場を知っている人なら誰でも経験したことがあるはずだ。医師が直々に電話をすれば、その医師の願いとあらばと、特別な空きベッドが湧いて出てくるような病院が近隣にいくつもあるならまだしも、そんな魔法を使える病院など、このご時世どこにも存在しないだろう。

現場の診療所では近隣の高次医療機関の空床情報や重症病床使用状況などの情報がリアルタイムに分からない。仮に分かったところで診療の片手間に転院先を探すことなど極めて困難なのだ。

やはり現在のような入院病床逼迫時には、地域の行政機関が司令塔となってこれらの情報を一元管理し、それに基づき入院調整してもらうしかない。第5波が去ったあと、なぜそのような入院調整業務を強化する体制を作っておかなかったのか。あまりにも怠慢と言わざるを得ない。

このようなことを言うと「だからこそコロナを5類にして全数入院などにしなければ良いのだ」とのリプライを必ずもらうが、そのような主張をする人には自宅療養がどれだけ厳しいものであるかの想像力が著しく欠けている。現状では入院か自宅かの100かゼロなのだ。ホテル療養もあるが、感染急拡大局面では焼け石に水だ。

第5波であれだけ自宅放置となる人が多数出て死者まで相次いだにもかかわらず、入院適応外となった人の自宅療養を極力減らすための大規模療養経過観察施設の建設を、なぜ感染爆発が一段落していたときに行ってこなかったのだろうか。