日本の新型コロナ対策では長期間にわたる自粛が行われた。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広さんは「日本での新型コロナ死亡者数は2年間で1万8400人だったのに、6.0倍の11万1000人の超過死亡が生じていた。考えられる理由は3つある」という――。

※本稿は、上昌広『厚生労働省の大罪 コロナ対策を迷走させた医系技官の罪と罰』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

会見する菅義偉首相(当時)を映す街頭ビジョンと歌舞伎町の飲食店。
写真=時事通信フォト
会見する菅義偉首相(当時)を映す街頭ビジョンと歌舞伎町の飲食店(=2021年6月17日、東京都新宿区)

コロナ流行の影響とみられる「超過死亡」が多かった

新型コロナに限らず、わが国では毎月の死亡者数が急増している。厚生労働省の人口動態調査(概数)によれば、2022年1~9月までの9カ月で約114万4000人が亡くなった。新型コロナ死が増えた2021年と比べて、7.7%、8万1734人も死亡者数が増えたというのだから、いくら世界で最も高齢化が進んだ国とはいえ恐ろしい数字だ。2022年8月の1カ月だけに絞ってみると、4回目の緊急事態宣言が出されていた前年同月より約1万8000人、15.1%も死亡者数が増えた。

インターネット上では、ワクチン接種後の副作用で死亡者数が増えたのではないかとの憶測が飛び交っているが、冷静にみて事実は異なると考えている。

実は、日本では当初新型コロナによる死亡者は欧米に比べて少なかったものの、コロナ流行の影響とみられる「超過死亡」が、ワクチン接種が始まる前から多かったからだ。超過死亡とは、過去の死亡統計や高齢化の進行から予想される死亡者数と、実際の死亡者数を比較して算出した死亡数のことだ。感染症による死亡だけではなく、他の疾患などでの死亡数が平年に比べて多かったかを高齢化の影響などは排除した上で算出する。新型コロナなどの感染症流行時の超過死亡は、感染症が社会に与えた影響の大きさをみる指標の一つとなる。統計処理によって偶然の増加では考えにくい死亡者数の増加が確認されれば、感染症の流行などの影響があったと判断される。

世界ではコロナ死者数の3.1倍が「超過死亡」している

残念なことに日本のマスコミはほとんど報道しなかったが、実は2022年3月、新型コロナ感染拡大下での「超過死亡」を考える上で注目すべき研究結果「新型コロナパンデミックによる超過死亡の推定:新型コロナ関連死亡率の体系的分析2020~21年」が、英医学誌『ランセット』誌に公開された。米国の研究チームによるこの研究では、74の国と地域を対象に、新型コロナパンデミック下の2020年1月から2021年12月まで2年間の超過死亡を推定した。超過死亡には、新型コロナ感染による死だけではなく、コロナの見落とし、コロナ感染を恐れた受診控え、外出抑制など生活習慣の変化に伴い持病が悪化したケース、経済的な困窮による自殺、医療逼迫ひっぱくなど様々な要因による死が含まれる。

この研究によると、2020~21年の2年間の世界の超過死亡は1820万人で、実際に報告された新型コロナによる死者数594万人の3.1倍だった。

論文の中で研究者らは、超過死亡率は各国から出された新型コロナの死者数よりも、今回のパンデミックの全死亡率への影響をより正確に評価する「真の尺度」だとした。そして、中央アジアの一部、サハラ以南のアフリカのほとんどの国で超過死亡が高くなったのは、検査や治療が受けられなかった人たちの死が新型コロナによる死亡としてカウントされなかったためではないかと指摘している。