そして、未来に向けたビジョンへの投資の一つが、前述したダイキン情報技術大学の設立で、ここで同社は、新たなビジョンの実現に向けたDX人材の育成を進めている。
ダイキンはこのようにして、この10年間でグーグルを上回る株価の成長率を達成し、さらに未来に向かって突き進んでいるのである。
ダイキンが示した“DXの本質”――「DX×3P経営」とは
ここまで述べてきたなかで重要なキーワードである「DX」について、私なりの定義を述べると、次のようになる。
「DXとは、データとデジタル技術を前提とした組織と事業によって、顧客価値を大きく向上させるイノベーションである」
ここで最も重要となるポイントは、「DX=イノベーション」という点だ。つまり、今の業界秩序を変えるような破壊的な取り組みであるべきだ、ということで、新産業を創造することこそ、DXの本質なのである。
では、イノベーションを起こすために、企業には何が求められるのか。
イノベーションの世界的な権威である元ハーバード大学ビジネススクール教授の故クリステンセン氏は、米国ブリガムヤング大学のダイアー教授、フランスINSEAD(欧州経営大学院)のグレガーセン教授とともに執筆した『イノベーションのDNA』(翔泳社)で、「イノベーションの源泉」として3つの要素を示している。
それが、「哲学(Philosophy)」「人材(People)」「プロセス(Process)」の3Pである。
この3つのPとDXを組み合わせ、DXに強い人と組織を作るためのアプローチを、私は「DX×3P経営」と呼んでいる(図表2参照)。
業績を上げ続ける企業の共通点
図表2は、3Pをそれぞれ「ビジョンと哲学(Philosophy)」「人材戦略(People)」「プロセス(Process)」と再定義したものだ。
最初の「ビジョンと哲学」は、創造的な行動と思考を促す哲学を企業文化(カルチャー)の中に植え付けているということ。
イノベーティブな企業は、誰もが創造性を発揮できるような行動指針をトップから発信し、リスクをとって挑戦することを奨励している。
次の「人材戦略」については、クリステンセン氏らはイノベーション人材に共通するスキルがあると説く。従来の価値観に基づく評価ではなく、創造的なスキルや能力の観点から人材を評価し、育成し、採用する必要があるのだ。