その象徴として挙げられるのが、同社が2017年に、ダイキン情報技術大学を設立したことだ。
この大学は、新卒社員100人を2年間現場に配属せず、AIやIoTの専門家、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を担う人材に育てるために設立したもので、今後、2023年度末までに1500人を育成する方針となっている。
私たちの会社IGSは、ダイキンにおいて役員研修や幹部研修、基幹職研修、DXに関する人材データ収集、そして情報技術大学など、さまざまなプロジェクトに関わっている。その中で強く感じるのは、ダイキン全社が一丸となってDX改革を推し進める姿勢を持っていることだ。
DXは人と組織の問題である
私はこれまで、DXを推進する企業をいくつも見てきたが、デジタル改革をどう進めていくか、という観点から、戦略や技術の不足に目が向いている企業が多い。
「そもそも企業はどこに向かい、どんなDXを実現したいのか」「どんな人材がそれを担うべきなのか」「組織はどう変わるべきか」といった、人と組織の問題について議論がないまま進んでいるといった状況だ。
一方でダイキンは、DXは人と組織の問題であると組織全体で捉え、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)と人事本部を中心に、DX改革を推し進めている。
TICとは、異分野の企業や大学、研究機関との連携、提携、融合を通じてイノベーションを創出することを重視する、ダイキンの研究開発のコア拠点である。
私は慶應義塾大学経済学部や一橋ビジネススクールで、特任教授として統計学、データサイエンス、DX変革を教えている。そこで改めて知ったのは、この分野で教えられる教員が、日本の大学ではきわめて少ないことだった。
昔ながらのモノづくりを支えるハードウェアの技術を教える教員は多いが、ソフトウェアの観点で教えられる人が少ないのである。
だからダイキンは、ソフトウェアを教えられる専門家を集め、自分たちで大学を作ってしまったのである。ここでは、ソフトウェアやデータを使い、組織や人をどう変えていくのか、といったところまで踏み込んだ教育をしている。
ユーザーの求めに応えるビジョンへアップデート
ダイキンの井上礼之会長は、データサイエンティストこそが、これからの製造業で非常に重要だと語っている。
今後、モノづくりの世界でデジタル技術とデータを利用して顧客価値を劇的に上げるためには、ビジネスモデルを変えていくことが重要になる、というDXの本質を理解しているからだろう。