こうした問題をどのように乗り超え、DXを実現すればいいのだろうか。
ここで重要になるのは、小手先のDX対応ではない。「DXを通じて革新的な顧客価値を創造することを全社で目指す」という姿勢だ。
そこでまず、最も重要かつ影響範囲が広いテーマとして、DXという時代の転換に合わせた「ビジョンと哲学」について考えてみる。これらは、どんな人材戦略とプロセスを築いて、どんなDXを実現していくかの大前提となるからだ。
時代の転換を具体的に表すものに、日本の内閣府が発表した「Society(ソサエティ)5.0」という未来社会のコンセプトがある。
これは、「狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの」で、今まさに到来しようとしているSociety 5.0は、あらゆるものがデータ化され、デジタル空間とリアルな空間が融合した社会となる。
会社のビジョンをSociety 5.0時代に向けて刷新し、そのビジョンに沿ったデータを取得するため、事業供給体制を組み直し、顧客に新たな価値を生み出す変革に積極的に乗り出してきたのが、ダイキンである。
経営陣の強い危機感が原動力に
ダイキンは2015年、異業種・異分野の技術を持つ企業や大学や研究機関との「協創」を掲げ、380億円を投じて「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」を設立した。
また、2015年の「パリ協定」(気候変動を抑制するための温室効果ガス削減に関する国際的取り決め)に賛同した同社は、2018年に「環境ビジョン2050」を策定した。
ここで、長期的視野に立って2050年の社会変化を予測し、これから進むべき方向として「温室効果ガス排出実質ゼロを目指しながら、安心で健康な空気空間を提供」することを謳っている。
これらの積極的な改革推進の背景には、技術競争で勝ち続けること、そして顧客にこれまで以上の新しい価値を提供できなければ、メーカーとして永続的な発展はないという、経営陣の強い危機感があった。
これについてダイキンの井上会長は「2050年に世界の空調需要が現在の3倍に拡大すると予測される中、快適な空気環境を提供すること、温暖化影響を限りなく低減することが、ダイキンの社会的使命である」と語っている。
経営陣がグローバルかつ30年以上の長期スパンで課題を捉え、強い危機感を持ったからこそ、ビジョンをアップデートできたといえるだろう。