「一隅を照らす」

中学校で生徒を前に、「君たちが何をしたか、仏さんは見ているよ」と話すこともある。ほとんどの生徒がスマホを持っている時代、少しでも加害者を減らすことができればとの思いからだ。

美清さんは講演のタイトルに必ず「一隅を照らす」という言葉を入れている。これも最澄の言葉で、「これ即ち国宝なり」と続く。一人ひとりが自分のいる場所で輝き、周りを照らしていくことで世の中が明るくなってゆく。そんな人こそ宝だ、という意味だ。

「今の世の中には、見えないものを怖がる心が無くなってしまったように感じます。そこで、コロナ禍が終息したら、子ども寺子屋を開きたいと考えているんです。まずは庭で草むしりをして、無心で汗をかいてもらって。そして、地獄の絵を見せようと思っているんです。むやみに驚かせるのではなく、やっていいことといけないことの境を伝えられたらと」

もともと音楽が好きだった美清さんは現在、天台宗の雅楽の会にも所属しており、ゆくゆくはこの寺で、音楽イベントや女性向けの座禅会を開催することも考えている。「ここが少しでも気持ちをリセットできる場所になればと思っているんです」

心が清らかであるか、自分自身に尋ねるとの意味でつけられた「尋清寺」。そのご本尊である薬師瑠璃光如来は、仏法という妙薬を持って人心を癒やすべく、今日も静かに微笑んでいる。

(文=山脇 麻生)
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