アマゾンと大手書店での流通を拒む理由
——創刊の手ごたえは?
【宇野】これまで定期刊行はやったことがなかったから、いつもは自信過剰気味な僕も珍しく自信がなかったんです。しかし、ふたを開けてみると予想外に評判がいい。読んでくれた人はすごく喜んでくれて、ホッとしています。
ただ、正直に言って流通は苦戦しています。今回、『モノノメ』はアマゾンと大手書店では扱わず、主な販路を僕が信頼する書店に限りました。大手チェーンでも、雑誌の趣旨を理解してくれている書店員さんのいる店には出しています。あとはクラウドファンディング、そしてBASEによるネットショップでの直販です。
創刊号は5000部を刷ったのですが、これに対してクラファンでは1129人から750万円の支援が集まりました。予想以上の反響でした。これまでの経験からすると、このままアマゾンで流通させれば、たぶん、8000部くらいは少なくとも刷らないと在庫はあっという間になくなってしまうと思います。
ただ、それはやりたくないんです。僕が信頼する本屋さんやコンセプチュアルなスペースに卸しているので、そういった施設を訪れてくれる読者に、『モノノメ』を届けていきたいと考えています。その結果として、初版の5000部がまだ売り切れていない。やっぱりアマゾンや大手チェーンは強いですよ。いや、分かっていたんですが……。
「プラットフォームの“外”で売る」という問題提起
——なぜ流通を絞ったのですか。
【宇野】ただ「この本を読んでください」じゃなくて、「本屋さんに足を運んで、棚に触れて、時間とお金をかけて本を選んでください」と言いたいんですよ。プラットフォームに流れてくるものではなく、その外側にあるものに意識的に触れることがいまの僕らの知的生活には大事だということを、まずは伝えていかないといけない。
“本屋で本を買う運動”を並行してやっていくべきだと思ったんですね。「本屋で本を選ぶ時間がもったいない」という人もいるけれど、あの時間こそがもっとも豊かな時間じゃないですか。それに共感できる人をゲリラ的に増やしていくことが大事だと思っています。
——アマゾンや大手書店を通さずに5000部を売り切るのは大変だと思いますが、次号以降もこの売り方を続けられるのですか。
【宇野】分かりません。でも、工夫してやっていければと思っています。
この売り方は問題提起です。実は僕もアマゾンをよく使っているし、自分が欲しい本がキンドルにないと不満だったりします。ただ、そのときに失っているものが確実にある。だからこの時代にはそれを意図的に補っていかないと、本来味わえるものを味わえなくなってしまう。だからそうでない時間を確保しないといけないと思うんです。