「のるか、そるか、冷笑するか」以外の選択肢を
——宇野さんは「いまのインターネットは速すぎる」と指摘しています。問題意識は共通していますね。
【宇野】そうですね。僕は数年前から「遅いインターネット」を提唱していますけれど、その必要性を痛感している人も増えていると思います。
SNSが普及してからのインターネットは、ユーザー同士の相互評価のゲームが強く働きすぎていると思います。誰もが自分のアカウントに多くの反応を得ようとしているこの状況では、すでにみんなが話している話題に対して投稿するインセンティブが高すぎる。そしてその投稿の内容も、すでに支配的なある意見に「のるか、そるか、冷笑するか」のせいぜい3パターンくらいで、それ以上に意見が多様化しないゲームになっている。つまり、新しく問題設定をするインセンティブがありません。
今日のインターネット言論が貧しくなっているのはそのせいです。だから新しい雑誌をつくるときに、「SNSの相互評価のゲーム」でセルフブランディングしている人は基本的に出さないと決めたんです。
コンプレックス層を動員する言論ポルノに抗う
これは、今のSNSで行われている相互評価のゲームではあたらしく問題設定するインセンティブが低いことを意味します。例えば、保守とリベラルの論争がくだらない、と考えたときにより建設的な論点を示すよりも、どちらもバカだと自分のことを棚に上げてこき下ろしたり、弱いほう、負けたほうをバカにするスネ夫的なコミュニケーションのほうが手っ取り早くユーザーを動員できる。
特に、弱いほう、負けた側をバカにすることで自分のことを「賢い」と思い込みたいコンプレックス層を動員して課金させるスネ夫的な言論ポルノはすっかり定着してしまった。これはすごく悪質です。
だから、こうした不毛なゲームから切り離された時間を積極的に自分の生活の中で確保していく人を増やしていかないといけない。それは単に内容がきちんと独自の問題を設定できる建設的な批判になっていることだけではダメで、メッセージの届け方も工夫しないといけない。それが、僕が「本屋で本を買う」ところに回帰しようと考えた理由の一つです。