社長が率先して幸せを追求する

むしろ社長だからこそ、自分が育休をとることで会社の理念を実践したいという思いがあった。参天製薬が目指す理想の世界は、Happiness with Vision(世界中の一人ひとりが、「見る」を通じた体験により、それぞれの最も幸福な人生を実現する世界を創り出す)である。谷内さんは、それなら社長が率先して幸せを追求する姿勢を示すべきだと考えたのだ。

「予定日の6カ月前には育休をとる宣言をした」と話す谷内社長。写真提供=参天製薬

社長になってから子どもが生まれる人はそう多くない。だからこそ谷内さんは、自分に訪れた育休取得の機会を、リーダーとして理念を実践するチャンスと捉えた。そして、出産予定日の6カ月前には「育休をとる」と宣言。そこから周囲との話し合いを開始し、説得や調整を重ねていった。

もちろん、社長に休まれては困るという声もあったという。そうした人に対しては「こうすれば大丈夫」と対策を提案し、自分の育休がいかに会社の理念に沿っているかを説明して回った。

例えば、会議はどうするのかという声にはリモート会議を提案。当時はまだコロナ禍前だったが、かつて赴任していたヨーロッパではすでにリモート会議が当たり前のものになっていたため、その現状や利便性を説明して納得してもらった。そのほかの課題も時間をかけて一つひとつ解消していき、谷内さんはようやく育休に入った。

朝食・お弁当・夕飯をつくる日々

では、1カ月の育休期間をどう過ごしたのだろうか。実際は完全な休みではなく、在宅での時短勤務のような形だったという。週のうち3~4日は10時から16時まで仕事をし、平日のうち1日は完全な「家事日」とした。

仕事もすべて自宅からのリモートワーク。毎回、仕事にとりかかる前には朝食や上の子のお弁当を、仕事を終えた後には夕飯をつくった。さらに育休中は、仕事上の会食はすべて断ってもらっていたという。