何の支障もなく全社リモートワークへ移行

もうひとつ、社長が育休中にリモートを活用したことで会議風景も一変した。リモート会議が当たり前になり、遠隔地の社員との意見交換も活発化。最初は、リモート参加の社員が意見を言い出しにくいなど多少の壁があったそうだが、皆が慣れるにつれてそれも解消していった。

1年後、これが思わぬ形で役立つことになる。コロナ禍の影響で政府が出勤者数を削減するよう要請し、参天製薬も全社的にリモートワークに移行。しかし、多くの社員が経験済みだったためほとんど混乱はなく、業務に支障が出ることもなかった。

もともと谷内さんは、会議は会議室でやるものだという日本独特の暗黙知のようなものに疑問を感じていたという。リモートでもできるのになぜその場にいなければいけないのか、非合理だと感じていたのだ。自身の育休は、そうした考え方を社内に根づかせる機会にもなった。

「出勤しているか、していないかで社員が対等に扱われないようでは、多様性のあるいい組織とは言えません。その意味では、コロナ禍を通して、より多様性のある強靭きょうじんな組織になれたと思っています」

女性の中に男性一人というマイノリティーを体験

今の日本では、家事育児負担はまだ女性に偏りがちだ。谷内さんは「どう分担するかは各家庭で決めること」としながらも、家事育児は女性の仕事という昭和的な価値観からは脱却していくべきだと指摘する。

育休中、上の子の保護者会に行った時のこと。100人ほどの保護者の中で、男性は谷内さんただ一人だった。男性なのに働いていないのかと思われたのかもしれない。変に視線を集めてしまい、マイノリティーであるがゆえの居心地の悪さを体感した。

つい先日も、授業参観に行って同じ状況を経験。逆に日本企業で働く女性はこういう思いをしているのではとあらためて気づき、少なくとも自社の女性社員にはこうしたマイノリティー感を味わわせてはいけないという思いを強めた。