どうしても「食べた以上に動く」とやせそうに思える
これまで、「肥満の解消には食事療法と運動の両方が大切」だと、どちらも同じくらい重要であるかのようにいわれてきた。
だが、食事療法と運動は、どちらも同じくらい大切というわけではない。食事療法がバットマンだとすると、運動はさしずめロビン(バットマンの弟子という役どころの架空のスーパーヒーロー)といったところだろう。肥満の原因の95%を占めるのは食事なのだ。
だから、そこにすべての注意を向けなければならない。論理的に考えれば、食事に的を絞ったほうが効果が出やすいということになる。
もちろん、運動は健康のためにいいし、大切だ――ただ、同じように大切なわけではない。運動することによる利点もあるだろうが、体重を落とす効果は期待できない。
野球にたとえて考えてみよう。バントは大切なテクニックのひとつだが、おそらく試合の5%ほどを左右するに過ぎない。残りの95%は打撃、ピッチング、守備にかかっている。だとすると、練習時間の50%をバント練習にあてるのは馬鹿げているだろう。
※編集部註:初出時、「おそらく試合の95%ほどを左右するに過ぎない」とありましたが、正しくは「おそらく試合の5%ほどを左右するに過ぎない」でした。訂正します。(11月16日11時23分追記)
あるいは、もしこれから受けるテストの95%が数学で、5%が単語の書き取りだったとしたら? 勉強時間の50%を単語練習にあてるだろうか?
「マラソン」でもごくわずかしか減らない
「運動をしても思ったほど体重は減らない」という事実は、これまでに行われた医学研究で十分に立証されている。
週間にわたって行われた研究では、実際に減った体重は予測の30%にとどまったことがわかっている(※8、9)。最近行われた実験では、被験者の運動を週5回に増やし、1回あたり600キロカロリーを消費させた。10カ月後、運動をした被験者たちの体重は4.5キロ減った(※10)。だが、減ると予測されていた体重は16キロだったのだ!
長期にわたって実施されたほかのランダム化比較試験の多くも、運動が減量に及ぼす影響は限定的か、あるいはまったくないことを示している(※11)。
2007年に行われたランダム化比較試験では、1年にわたって週6日、エアロビクスをやった被験者の体重は、女性の場合、平均で約1.4キロ減少、男性の場合は1.8キロの減少が見られただけだった(※12)。
デンマークの研究グループは、座っていることの多かった人たちにマラソンをさせてみた(※13)。すると、男性は平均で2.3キロ、体重が減少した。だが、女性の体重の減少は……ゼロだった。
体重を減らすことに関しては、運動はそれほど効果的ではないのだ。これらの研究では、体脂肪率にも大きな変化は見られなかった。
最も野心的で、多くの費用をかけて行われた、食事療法に関する包括的な研究
「Women’s Health Study(女性の健康に関する研究)」でも、運動についての研究が行われた(※14)。3万9876人の女性が、運動をよくする(一日に1時間以上)グループ、適度にするグループ、ほとんどしないグループの3つに分けられた。
10年間にわたって観察が続けられたが、運動をよくするグループの女性に、体重の減少は見られなかった。さらに、研究結果には「身体組成に何ら変化は見られなかった」とある。つまり、脂肪が筋肉に変わったということもなかった、ということだ。