比較的最近の活動率を、肥満が本格的にまん延する以前の1980年代の活動率と比べても、それほど減っているわけではない(※7)。ヨーロッパの北部の諸国では、1980年代から2000年代の半ばまで、運動によるエネルギー消費量が計算され記録されてきた。それによると、驚いたことに、運動量はむしろ1980年代よりも実際は増えていることがわかった。

そこで研究者たちは、さらに一歩進んだ研究を行った。予測される野生哺乳動物のエネルギー消費量を計算したところ、エネルギー消費量は外気温とBMI指数によってほぼ決まることを突き止めた。

それを基に、野生哺乳動物の同類であるピューマ、きつね、カリブー【訳注:北米のトナカイ】など活発に活動する哺乳動物と、2015年の“肥満人間”の身体活動を比べたところ、肥満人間の身体活動量は決して少なくないことがわかったのである。

狩猟採集をしていた時代から運動量が減っているわけではない。1980年代と比べても運動量が減っているわけではない。それなのに肥満は驚異的なスピードで広まった。となると、運動量の低下が肥満を招く主な原因であるとは考えにくい。運動量の低下が、肥満がまん延するようになった原因でないならば、おそらく運動をしても肥満をなくすことはできないだろう。

運動して燃やせる脂肪は「5%」が限界

一日に使われるカロリー(出ていくカロリー)は、正確にいえば「総エネルギー消費量」という。総エネルギー消費量は、基礎代謝量(のちほど定義する)、食事による熱発生効果、非運動性熱産生、運動後過剰酸素消費量、そしてもちろん運動によるエネルギー消費量を足し合わせたものだ。

「総エネルギー消費量」=基礎代謝量+食事による熱発生効果+非運動性熱産生+運動後過剰酸素消費量+運動によるエネルギー消費量

ここで大切なポイントは、総エネルギー消費量に含まれるのは運動によるエネルギー消費量だけではない、という点だ。総エネルギー消費量の大部分を占めるのは運動ではなく基礎代謝量だ。これは、呼吸、体温の維持、心臓の拍動の維持、脳機能、肝臓機能、腎臓機能など、代謝によって体の機能を維持する働きだ。

例を挙げてみよう。軽い運動をしている平均的な男性の総エネルギー消費量は、一日あたり2500キロカロリーだ。これに対して、毎日、ゆっくりと(時速3キロ程度)45分間歩いた場合に燃やされるエネルギーは、およそ104キロカロリー。

言い換えれば、ウォーキングをしても総エネルギー消費量のわずか5%ほどしか消費しないということになる。カロリーのほとんど(95%)が基礎代謝に使われるということだ。

基礎代謝量は数多くの要因によって変わってくるが、その要因には次のようなものが含まれる。

・遺伝
・性別(基礎代謝量は、通常は男性のほうが高い)
・年齢(基礎代謝量は年齢とともに落ちていく)
・体重(基礎代謝量は筋肉量にともなって増えていく)
・身長(基礎代謝量は身長が高いほど高い)
・食事(過食か少食か)
・体温
・外気温(体が温められるか、冷やされるか)
・臓器の機能

そのほか、睡眠、食事、運動以外の活動によって消費されるエネルギーのことを「非運動性熱産生」という。たとえば、散歩、ガーデニング、料理、掃除、買い物などがそれにあたる。

また、食事による「熱発生効果」は、食べ物を消化・吸収するときに使われるエネルギーを指す(食べ物に含まれる脂質などは吸収されやすく、代謝に要するエネルギーは少ない。たんぱく質の合成のほうが難しく、より多くのエネルギーを要する、など)。

食事による熱発生効果は、食事量、食事回数、多量栄養素によって変わってくる。「運動後過剰酸素消費量」は、細胞の修復、燃料の補充、そのほか運動後の回復活動に使われるエネルギーだ。

前述したように、基礎代謝量を測るのはとても難しいため、「非運動性熱産生、食べ物による熱発生効果、運動後過剰酸素消費量は常に一定である」という、わかりやすいけれども間違った仮説を私たちは作り上げてしまった。

この間違った仮説のせいで、「私たちが変えることができるのは運動によるエネルギー消費量だけ」という重大な誤りを含んだ結論が導かれている。そして、消費カロリーを増やすには運動量を増やせばいい、といわれるようになってしまった。

だが、ひとつの大きな問題は、基礎代謝量は一定ではないということだ。摂取カロリーを減らすと、基礎代謝量は最大で40%も減少する。逆に、摂取カロリーを増やせば、基礎代謝量は50%も増える。