早期退職者募集で起こる「優秀社員の流出」「愛社精神の希薄化」

しかし、新浪社長が言うように本当に企業の活性化を促し、ひいては日本経済を救うことになるのだろうか。

45歳を基準に必要な人を残し、残りは去ってもらえば会社としてはすっきりするだろう。そして新たに必要な人材を外部から調達するのが会社の算段だ。

だが、これまで早期退職者募集を実施した企業を振り返ると、さまざまな“副反応”をもたらしたことも事実だ。

具体的には以下の3つの症状が順を追って現れる。

優秀社員の流出

残った社員の業務負荷の増大や将来不安によるモチベーションの低下

愛社精神の希薄化と一体感の喪失

会社としては次世代のリーダーや研究開発の担い手として期待する人材には残ってほしいと思っていても、一定数の優秀な人材が手を挙げて辞めていく現象が必ず発生する。

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実はパナソニックの今回の早期退職者募集に関して、同社の楠見雄規社長は記者会見で「パナが大きく変わっていくという説明ができていれば、活躍を期待していた人まで退職することにはならかった」と発言した(2021年10月1日)。やはり退職者の中には優秀な人材も相当数含まれていたのだろう。

辞めてほしくない社員が引き留められても辞めてしまう理由

なぜ辞めるのか。

動機はさまざまだろうが、常時リストラをしている企業ならともかく、人員削減となると優秀な社員であっても精神的ショックを受けるだろう。リーマンショック後の2010年に希望退職者募集を実施したIT企業の開発職のA氏(48歳)もそんな1人だった。

A氏の会社では部門長が全員を集めて「希望退職募集を実施します」と告げたという。

「部長との不定期の評価面談が設定されるのですが、何月何日に面談を実施しますというメールが届きます。同僚の一人は面談後に『今、辞めたら退職金をこれだけ上乗せすると言われたよ』と言い、さすがにショックを隠せない様子でした。私は幸いに残ってほしいと言われたのですが、同僚とはたまたま開発中のソフトウエアが違うだけで、なぜ同僚が引導を渡されたのかよくわかりません。誰が選ばれて、誰が残るのか職場内で疑心暗鬼が渦巻きしました。

そのうち誰かが部長に『退職金が上乗せされるのは今回だけ』と言われたらしいという噂が広まり、辞めてほしくない人たちも手を挙げて辞めていきました。私も、このまま残ってもいつか辞めてほしいと言われるかもしれません。考えた末に応募を決意しました」