コロナ禍で始動した“路上博物館”
2020年5月18日、一般社団法人「路上博物館」設立。コロナ禍で思うように活動できないなかで、マーケティングを兼ねて7月にクラウドファンディングを行った。
「国立科学博物館の標本が自宅に届く! 3Dプリントレプリカ&ARポストカード限定販売」と掲げ、キリン、シマウマ、ジャイアントパンダなど10種類の骨格レプリカとポストカードを販売したクラウドファンディングは開始15時間で100%(100万円)を上回り、最終的には支援者は608人、総額761万3600円を達成して終了した。
スタート前には「100万円もいくかな?」と話していたふたりにとって、想像をはるかに超える結果になった。
今年3月には、オリジナルグッズを販売するオンラインショップ「かねろ」をオープン。ここでは、クラウドファンディングの時に製作した10種類に加え、森さんが最初にレプリカを作ったクロツチクジラもラインナップに加わった。そして今、3つの博物館とオリジナルのミュージアムグッズを開発する話が進んでいるという。
標本をもっと身近なものに
森さんによると、東京国立博物館は1877年(明治10年)に「教育博物館」となり、教育機関に作成した剥製や骨格標本の販売を始めている。それから5年後の1882年頃には払い下げの希望が殺到し、新たな事業として取り組むことになったそうだ。森さんは、「路上博物館の活動は、教育博物館時代の『払い下げ』へのオマージュです」と語る。
僕からすれば、ふたりの取り組みは、博物館の学芸員、研究員だけが間近に見て、触れることを許されていた標本の民主化だ。このレプリカがきっかけで、新しい研究が生まれたり、研究者を志す子どもたちが増えたりすることも十分にあり得る。
インタビューのなかで森さんが話してくれたレオナルド・ダ・ヴィンチのエピソードで、締めくくろう。
「レオナルド・ダ・ヴィンチは画家であり、造形もしながら、すごい数の解剖もしていました。それまでは、ギリシャ時代にまとめられた人体の資料があるのだから、人間の解剖なんて必要ないと思われていたんですが、ダ・ヴィンチは本を見てもよくわからないからと解剖を始めます。それに触発された若い医者が続々と出てきて、ルネサンス時代に解剖学も花開きました。僕がやっていることも似ているなと思っています。現代のレオナルド・ダ・ヴィンチと書いておいてください! いや、やっぱりやめて」