自身が悩んだ経験から若手を支援
選抜された社員は大学院入試を経て、大阪大学の「REACHラボ」に在籍。ここで指導教員や大学院生らとともに研究を行い、2~3年かけて博士号取得を目指していく。入学金や授業料などはすべて会社負担で、派遣中は社員が確実に成果を出せるよう協働研究所が伴走するなど支援も手厚い。
こうした仕組みになったのは、発案者の飯田さんが、若手がさまざまな経験をしやすい環境をつくりたいと考えていたからでもある。
「以前から社内には、優秀な若手は積極的に異動させて色々な部署を経験させようという方針がありました。でも現実的には、優秀な若手は部署が手離したがらない。違う環境を経験して成長したいという若手は多いので、何とかしたいなと思っていたんです」
では会社が大学院に派遣して、新しい環境で最先端の研究に触れる機会をつくってはどうか。そう思いついたとき、真っ先に浮かんだのが以前から連携していた大阪大学だったという。もともと飯田さんは協働研究所の所長でもあり、大学の研究者やその研究テーマについてもよく知っていた。
大阪大学には、島津製作所がこれから伸ばしたいと考えている事業分野を研究している先生がたくさんいる。なのに、その先生たちと共同研究やディスカッションをする機会を得られるのは、かなり高いレベルの知識を持った社員だけ。まだそのレベルに達していない若手を送り込む仕組みをつくれば、高度人材育成や自社の発展に、引いては日本の科学技術発展につながるのでは──。
話はとんとん拍子に進んだ
この考えを大阪大学に話したところ、大学側は大賛成。以前から技術者や研究者の育成に貢献したいと考えてはいたが、どう具現化すればいいか迷っていたというのだ。飯田さんが打診したのは2020年の夏、プロジェクトが実現したのは翌春。このスピード感を見れば、両者の思いがいかに合致していたかがよくわかる。
「成長したいと思ったらどんどん成長できる、学びたいと思ったらすぐ実現できる。そんな道筋を、意欲ある若手につくってあげたかったんです。今思えば、自分が学位を取りたいと考えたときに方法がわからなくて苦労したからかもしれないですね」(飯田さん)
加えて、事業の発展につなげるための仕組みもしっかりとつくられている。社員に学んでもらうのは、あくまでも島津製作所の事業戦略にのっとった分野。そのため、研究テーマは事業部をはじめ経営戦略室や技術推進部などが一緒になって検討し、その上で大学と相談して決めていくという。
派遣した社員に期待するのは、グローバルな共同研究の成果を事業や製品に反映し、社会に還元すること。同社としては、この一連の流れを通して企業理念である「科学技術で社会に貢献する」を実現したい考えだ。