記念すべき第1号

2021年4月からは、トライアルとして1名が大阪大学薬学研究科の博士課程に派遣されている。研究対象は、島津製作所が研究開発の重要テーマと位置づけている「核酸医薬品の分析」だ。

記念すべき第1号となったのは、入社3年目の林田桃香さん。理学部の修士課程を終えたのち同社に入社し、分析計測事業部の研究職に就いた。院生時代に博士課程へ進まなかったのは、「企業に入ることで、いま自分が持っている専門性と社会の実情を照らし合わせたかったから」と語る。

しかし働くうちに、修士課程で研究したDNAや核酸などのバイオサイエンスと、仕事現場で学んだ質量分析の知見を融合したいという思いがふくらんだ。

「バイオサイエンス+機器分析のプロになりたい、そのために一度職場を離れて学問としてしっかり学びたいと思うようになったんです」(林田さん)

当時はまだREACHラボプロジェクトがスタートする前。林田さんもまた飯田さんと同じように、学ぶための道を模索した。博士号をとりたい、でもどうすればと悩み、「母校の大学院に戻ろうかと思っている」と上司に相談もした。

そこへ同プロジェクトの話が持ち上がり、上司の推薦によって第1号に決定。現在は会社を離れ、大阪大学のREACHラボで、核酸医薬の品質管理工程における分析手法を研究している。

研究室に入って約半年が経った今、林田さんは「学生時代にいたラボに比べて教授陣も学生数も多く、いろんな研究が同時に、すごいスピードで進んでいる」と驚きを語る。議論のレベルも想像以上に高く、毎日が刺激的だという。今後3年は学問に集中し、復社後には研究成果を生かして核酸の分野で新たな価値をつくり出していくつもりだ。

男女問わず「意欲ある若手」を派遣していく

林田さんに続く人材についても、社内公募を準備している。選抜基準は男女関係なく「意欲ある若手」で、今後5年間で10名ほどの派遣を目指す。研究テーマは医薬だけでなく、AIや情報科学、人文系、さらには複数の学問領域にまたがる学際分野にも広げていく予定だ。

飯田さんは「グローバルに活躍できる高度人材を育て、まだ答えのない課題に対して正解を出していくこと。それが当社や日本の成長につながるはず」と力を込める。

島津製作所と大阪大学の挑戦はまだまだ続いていく。日本は科学技術大国と言われるが、グローバルに戦える技術者や研究者を今後どう育成していくか、悩んでいる大学や企業は多い。REACHラボプロジェクトは、そうした課題に対するひとつの解になり得るのではないだろうか。

(文=辻村洋子)
【関連記事】
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由
「最後に質問は?」面接で落とされる人のNG質問、受かる人の冴えた質問
なぜ「市場がない」と言われた、ノースフェイスの高級マタニティ商品を男性がこぞって買ったのか
仕事量はほとんど同じなのに「忙しそうな人」と「余裕のある人」の決定的な違い
「データ不備で開発に2年の遅れ」会社に巨額の損失を出した私に上司がくれた"ひと言"