「A玉B玉説」が登場したのは1990年という比較的新しい時期
ビー玉遊びというと、今では「懐かし玩具」として認識されている。そしてラムネ飲料もまた「懐かしの味」として認識されている。
僕は現在46歳だが、子供の頃はまだビー玉遊びは多少古びてはいたものの、まだ子供たちに親しまれていた。またラムネ飲料も特に珍しくもなく、普通に駄菓子屋などにならんでいた。つまりどちらも「懐かし」ではなく「現行」だった。
そうした、ビー玉やラムネ飲料に親しんでいた僕たちは、この「A玉B玉説」を、当時一切聞いたことがない。
僕たちはずっと「ビー玉はビードロ玉の略」だし、「ラムネのビンに入っている玉もビー玉」として認識していたのである。
実はこの「A玉B玉説」が書籍などの参照可能な資料として登場するのは1990年という比較的新しい時期だということが分かっている。
これを調査して紹介しているのが、ワイドナショーで紹介された『アレにもコレにも!モノのなまえ事典』の作者である杉村喜光氏である。
杉村氏によれば、辞書でもビードロでできた玉の略とあるように、明治時代にビードロ玉と呼ばれ、永らくその語源しかなかった。ところが1990年に出版された本に突然「A玉B玉説」が登場、これが「トリビアの泉」などの雑学ブームの中、書籍やテレビなどの様々なメディアで取り上げられ、その後ネットに広まったのだという。
あやふやな説がネットで「事実」として広まってしまう
この一連の流れを、杉村氏は自身のTwitterアカウントで詳しく紹介している。
「ビー玉はビードロ玉の略」という説は、過去の書籍などの参照可能な資料から発見できる。しかし、「ラムネ玉はA玉で、不良品がB玉」という説は、1990年以前の書籍などからは発見できない。つまり「ビー玉はビードロ玉の略」であり「ラムネのビンに入っている玉はビー玉」という説が正しく、「A玉B玉説」は荒唐無稽というほかないのである。
もう1つ似たような例がある。
こちらは短く紹介するが「銀ブラの語源は銀座をぶらぶらではなく、銀座でブラジルコーヒーを飲むこと」という説がある。
しかし「銀座でブラジルコーヒー説」にさしたる根拠はない。一方で、銀座でぶらぶらという意味での「銀ブラ」は、大正時代に始まり、今に至るまで様々な書籍で使われている。
『三省堂国語辞典 第七版』(三省堂)では明確にブラジルコーヒー説が「あやまり」と記されている。
また『「銀ブラ」の語源を正す』(いなほ書房)という書籍も発行されており、1冊かけてブラジルコーヒー説が誤りであることが解説されている。
こうしてみるに、「ラムネの玉はA玉」も「銀ブラは銀座でブラジルコーヒーを飲むこと」も、極めて脆弱であやふやな説なのだが、なぜかネットではこの2つの説が「事実」として広まっているのである。