欲望を通してデータを見ることで仮説が生まれる

欲望を通して、主観的にデータをみているときに、仮説が生まれる。

ノンフィクションであり、映画にもなった『マネーボール』の主人公ビリー・ビーンは、データを用いて球団を強くした。貧乏球団だったオークランド・アスレチックスは、彼の手腕でプレーオフ常連の強豪チームに変貌した。データを使ったことが注目されるが、勝ちたいという強い欲望が、データをもとにした仮説と観察のサイクルを生み出したのだ。

どの球団も、同じように勝ちたいと強い欲望をもっていたのかもしれない。しかし、どの球団も同じ問いに向き合っていた。

「どうすれば勝てるのか?」だ。

「たくさんヒットを打つバッターと、点をとられないピッチャーがいるチームを作ればいい」

「どうすればそのようないい選手を揃えられるのか?」

「スカウトか、ドラフトか」

というような感じで、同じ思考サイクルに陥っていた。

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野球界の常識にとらわれないデータの見方ができた

一方、ビリーは「どうすれば年俸が安い選手で勝てるのか?」を考えた。そして、野球を「ヒットを打って、点をとられないようにして勝つ競技」ではなく、「27個のアウトをとられるまでは終わらない競技」と定義づけた。

この仮説をもとに、球界にあるデータを見直した。ビリーの主観が、すでにあるデータの見方を変えたのだ。

それまでの球界の常識では、フォアボールよりもヒットのほうが重視されていて、打率の高い選手が高い年俸をもらっていた。だが、点をとるために必要なのは相手にアウトを与えないこと。その視点で見ると、ヒットとフォアボールの価値は同じだ。

こうして、アスレチックスはヒットを打つ選手でなく、出塁率の高い選手を、安い人件費で集めて、強豪へと生まれ変わった。

ビリーはそれまでの野球界の常識にとらわれなかった。「どうすればアウトをとられないか?」という主観からデータを眺めた。だからこそ、独自の仮説を立て、観察をし、データの価値を再発見するというサイクルに入ることができたのだ。自身の会社でもデータを集めることを僕は重視している。売り上げや利益といった指標だけではなく、もっと社員が働きやすくなるための仮説を立てるもとになるデータはなんだろうか、と考えている。