他人の評価を貶める人は、企業文化に合わない

このように誤解が解ければいいのですが、時には上司や会社が社員を見限るようになってしまうことがあります。

その後、Aさんは他部署の同僚たちに、「産業医もうちの上司は無能だって言っている」と吹聴するようになってしまいました。

Aさんの健康を心配し、業務負荷を減らすなどの対処をしていた中での出来事に、さすがの上司も我慢が限界に達しているようでした。結局、組織内で他人の評価を貶める等の噂を広めることは企業文化に合わないとして、今後、どのように彼に対処すべきか人事と相談を始めたということです。

また、社員が既に病院を受診している場合、「主治医もこれはハラスメントで会社が悪いと言っている」と言ってくることがあります。

社歴10年以上の40代女性、Bさんは、いきなり会社に診断書を提出しました。そこには、「職場におけるパワハラにて、適応障害を発症。治療のため自宅療養を要する」と書いてありました。

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「休職」と「ハラスメント」は別問題だ

このような診断書を見ると、私は同じ医者として悲しくなります。なぜ、職場の状況を知らないのに、患者一人の話を聞いただけで“職場におけるパワハラ”が事実であると断定できるのでしょうか。主治医が患者の気持ちに寄り添うことは大切ですが、おそらく言いなりに書いているのだと思います。

それでも会社としては、このような診断書は見逃せないものです。そのまま休職を認めると、こうした社員は「自分がパワハラを受けていた」そして、「会社もそのことを認めている」と勘違いしてしまいがちだからです。

そうならないためにも、私は産業医面談で社員といい関係性を築いた上で、“休職”は認めるが、“ハラスメント”については別問題であることを説明します。

そして、社員一人だけの訴えを聞いた主治医に事実認定はできないので、診断書は不適切であり、ハラスメントの記載を省いての再提出を求める場合もあることを伝えています。

さらにハラスメントについての訴えについても否定するのではなく、会社のホットライン等の手順に従い、調査してもらうことを勧めます。ほとんどの場合、社員は理解してくれます。