産業医面談を受けた結果、会社に居づらくなる社員がいる。それはなぜか。産業医として年間1000件以上の面談をしている武神健之さんは「人は精神的に余裕がなくなると考え方が極端になる。その時に指摘をしてくれるような人間関係があるかどうかが分岐点だ」という――。
後悔に耐える男性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

産業医面談後に発生する「ややこしい事態」

「産業医はどんな面談しているんだ! って言われたのですけど……」

ごくたまにですが、産業医面談後、ややこしい事態が発生してしまうことがあります。

詳しく話を聞いてみると、面談した社員が訴えていた「ハラスメントだ」「上司が悪い」等々の内容が、いつの間にか産業医も同意見ということになってしまっているのです。

確かに産業医面談の際に、面談社員がいろいろなことを他人のせいにすることがあります。私は訴えに、「そうなんですね」と相づちを打ち、「それは大変ですね」、などの共感も示すことは多々あります。社員の気持ちをくんで、「残業減るといいね」「他部署への異動もできるといいね」と、言うこともあります。

時には社員が、「これってひどいと思いませんか」と同意を求めてくることがあります。産業医面談ですので、Noと答えることはほとんどありませんが、Yesと答えることも実はなく、その時は「つらいですよね」「僕だったらきついかもしれません」と社員の気持ちを表現し、理解を示します。

信頼関係を築くために「個として承認」している

いずれの場合も共通しているのは、面談社員の主張(主訴)を否定はしないということです。産業医は、現場をみているわけではありませんので、社員の発言の真偽はわかりません。ですので、社員の気持ちに共感し、理解を示し、発言している社員を“個(人)”として承認しているのです。

例えば、患者さんが「先生、○○度の高い熱があってしんどいです」と街の診療所を受診した時、ほとんどの医者は、体温計の示す体温に関係なく、「それはしんどいですね」とまずは答えるでしょう。決して「○○度は高熱ではないですよ」とは言いません。

この時も医者は、“しんどい”と言っている個(人)を承認しているのです。もちろん、実際の体温も診療上必要ですが、まずは患者さんを承認し、治療のためのいい信頼関係を築こうとしているのです。

同じように、産業医が承認するのは、社員からもっと話を聞き、さらなる信頼関係を築くためでもあります。決して、一つひとつの訴えの事実を認定しているわけではないのです。