「同意」と「承認」の違いに気づかないAさん(30代男性)

この承認と同意の違いに気がつくことができず、自分の訴え全てを産業医も認めてくれたと思ってしまう人がたまにいます。

Aさんは30代の入社2年目の男性で、業界大手から私のクライエントに転職してきました。この2年間、昇進を目指して仕事に打ち込んできたとのことでしたが、自分の仕事が評価されていないと感じ、そのもどかしい気持ちから仕事に集中できなくなったと産業医面談にきました。

彼が言うには、上司のマネジメントが下手で、仕事ができない同僚に能力以上の業務を与えてしまう。その尻拭いのため、いつも締め切り間際で自分が駆り出され、おかげで自分の仕事がはかどらないとのことでした。

会議中のビジネスマンたちの手元
写真=iStock.com/kazuma seki
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面談では、同僚や上司の能力の低さや、会社のやり方が効率的でないことなどが、自分の評価が高くならない原因であるとして、何度も「わかってくれますよね」と訴えていました。

私は彼の頑張りを承認し、彼の抱えるやり場のない怒りやつらさに共感を示すよう努めました。その後も数回面談に来ましたが、毎回30分の面談時間いっぱい、いろいろな不満を口にしていたのが印象的です。

時折、業界大手の前社と今の会社とでは規模や文化も異なるので、やり方もいろいろある。周囲に合わせることも業務をやり遂げる中で必要なのでは、と自覚を促そうとしましたが、そのような声に耳を傾けることはありませんでした。

「産業医はどんな面談しているんだ!」上司が困惑した理由

そんな中、彼の部門人事から、冒頭のように「産業医はどんな面談しているんだ! ってAさんの上司が言ってきたのですけど……」と、連絡がありました。

Aさんが上司との1対1のミーティングの際に、「私の評価が低いのは、忙しい時ほど同僚の尻拭いに振り回されることや、上司のマネジメント不足が原因だということは、産業医も認めてくれている」と言ったそうです。

このような事態に慣れている人事は、上司からのクレームに困惑することはありませんでした。そして、私の話を聞いた上で、Aさんは同意と承認の違いに気づくことができていない可能性が高いことを伝えてくれて、上司も納得してくれたのです。