消費者にとっては、購入商品の大部分はもちろん、住宅や自動車の保険も処方薬もリハビリも子供の家庭教師も何から何までアマゾンが供給するような未来像は、以前よりも現実味を増している。

オンラインで何かを買うときは決まってアリババになるだけでなく、銀行も近所のショッピングセンターのオーナーもアリババになっている世界は、決してあり得ない話ではなく、むしろ想像しやすい。自宅の冷蔵庫の内部はもちろん、子供たちが毎日何時間も使っているSNSまでウォルマートの管理下に置かれるような世界を荒唐無稽と言い切れるだろうか。

少しでも可能性があるとすれば、多くの小売業者にとどまらず、地球上で人間を相手に何かを売っているすべての関係者にとって脅威だ。こういった国境なき巨大な怪物マーケットが消費者の暮らしの隅々まで入り込んでしまうと、価値と効用という名の有刺鉄線が顧客の周りに張り巡らされる。すると、他の業者がこの顧客にアプローチすることはほぼ不可能になる。

小売りを入り口に生活のすべてを握られる?

パンデミックで、食物連鎖の頂点に立つ巨大な怪物の遺伝子組成は変異した。こうした企業がすでに桁外れの規模と売り上げに達していることを考えると、今後、この遺伝子変異で、信じられないような成長軌道に乗るだろう。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)

そして、もっともっと巨大化していくはずだ。感染拡大の混乱が続くなか、このような怪物企業は、中間層の小売店やチェーン、百貨店をほぼ壊滅させ、品揃え、利便性、価格競争力を徹底的に向上させて、今日の量販店やコンビニなどの業態の多くは焦土と化すだろう。

むろん、危険性は明らかだ。ひとたびこうした怪物企業がこれまでよりうまみのあるカテゴリーを次々に掌中に収めていけば、ECサイトでの商品利益率はあまり重要でなくなるのだ。極端な話、ECサイトは採算ラインぎりぎりで運営し、純粋に新規顧客の獲得手段として利用することも可能になる。

その場合、商品は、新規顧客を招き寄せるための撒き餌に過ぎない。釣られた客は、怪物が用意した巨大エコシステムに生涯にわたって取り込まれることになる。銀行にしても、保険会社にしても、保健医療機関にしても、教育機関にしても、輸送業者にしても、怪物に大事な商売道具をごっそり持っていかれるわけだ。

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