食料品購入履歴は、個人や世帯消費データの宝庫

レジ前で自分の列に並んでいる他の客のショッピングカートやカゴの中を注意して見てみよう。そこに入っている商品を見て、何かひらめくことはあるだろうか。

ペットを飼っているかどうかわかるだろうか。子供はいるだろうか。健康意識の高い人か。料理好きか。それとも惣菜を好んで買っているだろうか。ブランド重視で商品を選んでいるか。それとも店のプライベートブランド(PB)商品を好んで買っているだろうか。このような気づきがたくさんあるのではないだろうか。

食料品分野ほど個人や世帯の消費データを如実に炙り出す分野はない。アマゾンのような企業にとって、こうしたデータは、牛乳や卵を売って手にする微々たる儲けに比べたら、はるかに大きな価値がある。食料品分野の競合にとってアマゾンが危険な存在である本当の理由は、ここにある。

オンタリオ州ユニオンビルのホールフーズ・マーケット(写真=Raysonho@Open Grid Scheduler/Grid Engine/CC0/Wikimedia Commons

あらゆる分野で進行するアマゾン・エフェクト

いったいアマゾンはどこまで大きいのか。ニューヨーク大学スターン経営大学院教授のスコット・ギャロウェイは次のように言う。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)

「アマゾンの株価が7%下落したら、ボーイングの時価総額が吹き飛ぶほどである。アマゾンは今まさにそういう状況にある。たった1日の取引でボーイングの時価総額相当分が増えたり減ったりしているのである。この巨大すぎる企業について語る場合、1日の株の値動きでボーイングという企業を売ったり買ったりしていると考えてもいい」

同様に、アマゾンが未進出分野にちょっと関心を見せるだけで、その分野の既存企業の市場価値を下落させるほどの影響力がある。たとえば、2017年にアマゾンが家電販売への進出を発表したところ、ホームセンターのホームデポ、家電量販店のロウズやベストバイ、ワールプールの時価総額のうち、合わせて125億ドルが吹き飛んだ。たった1日の出来事である。

これでもアマゾン支配の構図が信じられないというのなら、2019年にフィードバイザーがアメリカの成人2,000人を対象に実施した調査を紹介しよう。それによれば、「オンラインショッピングならアマゾンで買う」との回答が89%に上った。これがプライム会員に限定すると、96%にまで増加する。

アマゾン包囲網ができる理由

だからといって、アマゾンが盤石ばんじゃくとは限らない。実際、隙はある。同社は、冷酷な幹部が大手を振る労働環境、さらに劣悪な倉庫の従業員の労働条件など、悪評に手を焼いている。