ドラスチックに事業ポートフォリオを組み替えた

日本の製造業に限れば、2021年3月期決算の最終利益で1兆円を超えたのはトヨタ自動車とソニーだけで、過去にさかのぼってもトヨタと2018年3月期のホンダだけだ。その点で2018年4月に就任して以来、「SONY」の絶対的なブランドを守りつつ、ドラスチックに事業ポートフォリオを組み替え、復活に導いた吉田氏の経営手腕は高く評価されている。

このため、ソニーGが繰り出す次の一手を示す2024年3月期までの中期経営計画で打ち出す事業戦略には注目が集まる。

中期計画そのものは4月末に、今後3年間の累計で4兆3000億円のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を目指すなどの数値目標の骨格は公表しており、今回の説明会では吉田氏が放った「顧客基盤10億人」がとりわけ目を引いた。

吉田氏は「期限を定めた目標ではない」として、中期計画で設定した2兆円超の戦略投資枠を活用した企業の合併・買収(M&A)などを通じ、積年の課題だったハードとソフトを融合した企業体を目指す長期的に取り組む方向性である点を強調した。

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キーワードは「感動」と「パーパス(目的、存在意義)」

吉田氏がキーワードとして掲げたのは「感動」と「パーパス(目的、存在意義)」。そこには、ソニーGが一定のベクトルに沿って新たな事業モデルの確立に挑む解を示した意味がある。

顧客基盤10億人というスケールを考えた場合、当然、「GAFA」と称されるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの巨大プラットフォーマーの存在を意識したのでは、と連想させる。しかし、吉田氏は「自社で必ずしも(プラットフォーム)を作る必要はない」と言い切る。

社長就任以来、M&Aなどを通じて拡充してきたエンタメ領域でのコンテンツをIP(知的財産)やD2C(Direct to Consumer/消費者に商品を直接販売する仕組み)で顧客とのつながりを広げ、顧客基盤10億人を目指す考えを事業説明会の場で説いた。

ソニーGの事業戦略を読み解くには、今年4月に行われた「ソニーGへの移行」に注目すべきだろう。