顧客と直接つながる「D2C」を強化するシナリオ

ソニーGへの体制移行は、単なるソニーからの社名変更でない。ソニーGに本社機能を集約し、ソニー株式会社として「ソニー」の商標を継承した祖業であるエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業に、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、半導体のイメージング&センシング・ソリューション、金融を加えた6つの事業がぶら下がる。

2024年3月期までの事業戦略で中核に据えるのは、今や営業利益の6割を稼ぎ出すエンタメ領域だ。ゲームや映画、音楽のそれぞれの事業が連携してグループトータルとしてのシナジーを高めるのが狙いで、「顧客基盤10億人」の目標達成のカギとなる。

吉田氏が事業説明会で語った「パーパス」を通じて「顧客に感動体験を届ける」がそれを意味し、IPを駆使して企業と顧客が直接つながるD2Cの領域を強化するシナリオにつながる。

ビルにソニーのロゴ(2011年3月・品川インターシティ)
写真=iStock.com/MMassel
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D2C強化の流れはすでに起き、収益につながっている。事業説明会で具体的に挙げたのが「鬼滅の刃」だ。傘下のアニプレックスが企画したテレビアニメが人気となり、これを2020年に公開した映画は過去最高の興行収入記録をつくった。さらに主題歌は音楽事業を担うソニー・ミュージック所属のアーティスト、LiSAが歌い、国内外でヒットした。

アニメの続編やゲームの開発も進めており、エンタメ領域で有機的に事業をつなぎ、重層的に顧客層の幅を広げる、ソニーGが目指す理想的な成功事例となった。

「ビッグマウス」が注目された歴代トップとは決定的に異なる

しかし、この延長線上だけで「顧客基盤10億人」の目標には手が届かない。そこで打ち出すのはM&Aの加速だ。ソニーGは中期計画では2兆円を超える戦略投資枠を設定した。前の中期計画から約6000億円超上積みし、アニメ配信サービスなど「ニッチな(M&Aの)案件を重ね」(吉田氏)、大きく育てる考えだ。

一方で、ソニーGは映画事業で4月に米国のネットフリックス、ウォルト・ディズニーとの間に配信契約を相次いで結び、顧客、いわばソニーのファン獲得につなげる方向も同時進行で進める。

これらエンタメ領域でのソニーGの一連の取り組みを見れば、巨大プラットフォーマーと真っ向勝負するつもりはないことがうかがえる。

そこには最高財務責任者(CFO)として平井一夫前社長を支えてきた吉田氏の堅実な経営手法が垣間見える。それは「ビッグマウス」が注目された歴代トップとは決定的に異なる。