日本の製造業で2021年3月期決算の最終利益で1兆円を超えたのはトヨタ自動車とソニーだけ。このうちソニーをどん底から大復活に導いたのは2018年に社長兼CEOとなった吉田憲一郎氏だ。就任当初は「ソニーらしくない」ともいわれた吉田氏は、なぜ大復活の立役者となれたのか――。
経営方針説明会に臨むソニーの吉田憲一郎社長=2019年5月21日、東京都港区
写真=時事通信フォト
経営方針説明会に臨むソニーの吉田憲一郎社長=2019年5月21日、東京都港区

次なる目標は「顧客基盤10億人」

ソニーは今年4月、社名変更して「ソニーグループ」として新たなスタートを切った。社名変更は、実に63年ぶりだった。

そのソニーグループ(ソニーG)は、新体制移行後初めてとなる投資家向けの経営方針と事業説明会を5月26~28日の3日間開催した。そこで飛び出したのは、いまやグループ最大の稼ぎ頭となったエンターテインメント領域を核に、グループ全体の事業と直接つながる顧客基盤を10億人に拡大する目標だった。

ソニーGの顧客は現在約1億6000万人とされ、10億人はその6倍超となる。26日のオンラインでの説明会に登壇した 吉田憲一郎会長兼社長CEOは「顧客基盤10億人」の目標を掲げながらもその達成時期を具体的に示さなかったため、「大風呂敷を広げただけ」という受け止めもある。

しかし、世界ブランド「SONY」の復活は劇的だ。2021年3月期の連結最終利益は過去最高を更新し、初の1兆円超えを達成。経営者なら必ず口にする「経営は結果がすべて」を成し遂げている。新体制のスタートで打ち出した事業戦略には、むしろ強い自信がにじむ。

「物言う株主」の要求も、結果ではね返した

その自信は、米有力アクティビスト(物言う株主)のサード・ポイントから再三にわたって突き付けられてきた「事業構成の見直し」という要求をついに結果ではね返した自負にも映る。

多角的な事業を展開する複合企業(コングロマリット)には、グループシナジーを発揮できず、むしろ企業価値を下げてしまう「コングロマリット・ディスカウント」に苦しむ事例が多い。かつてエクセレントカンパニーとして名を馳せ、世界中の企業から称賛された米ゼネラル・エレクトロニクス(GE)がその代表例で、業績不振から市場の圧力にさらされ、事業の大幅な切り売りを迫られた。

サード・ポイントは2019年6月に約16億ドル相当のソニー株保有を表明し、ソニーに半導体事業の分離や金融事業、エンタメ領域への集中など資本構成の見直しを強く迫った。しかし、最終的にサード・ポイントは2020年8月に保有するソニー株のほとんどを手放した。これはソニーがコングロマリット・ディスカウントへの懸念を打ち消したと評価できる。