就任時には「最もソニーらしくない退屈なトップ人事」とも

ソニーの歴代の経営トップといえば、立志伝中の共同創業者の盛田昭夫、井深大の両氏をはじめとする「強烈な個性」が共通点だ。それがソニーの独創的なアイデンティティを引き継ぎ、大きな浮き沈みはあったものの、絶対的なブランド価値を維持してきた。

たとえば5代目社長の大賀典雄氏は、プロの声楽家としても活躍し、CD(コンパクトディスク)で音楽の世界にデジタル化を持ち込み、「ウォークマン」をヒットさせた。6代目社長の出井伸之氏は、文系出身ながらソニーをAV(音響・映像)企業からIT企業への脱皮に邁進し、今もベンチャー企業の育成に精力的に動く。9代目社長のハワード・ストリンガー氏はソニー初の外国人トップで、米3大テレビ局CBS本社社長という経歴を持つ。10代目社長の平井一夫氏は音楽事業子会社のCBSソニー(現ソニー・ミュージック)出身で、そこからソニーのトップに上り詰めた異色の経歴を持つ。

カセットテープとウォークマンとヘッドフォン
写真=iStock.com/Shaiith
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現職の吉田氏は財務畑を歩き続けており、社内外の人物評は「まじめで誠実」。2018年4月の社長就任時には「最もソニーらしくない退屈なトップ人事」との評すらあった。しかし、そうした評は本質を理解しないやっかみだったといえる。現在のソニーの復活劇を見る限り、吉田氏は「トップの強烈な個性に頼る」という前例を覆し、事業構造に大ナタを振るうことで収益力を大きく回復させた。

6事業の中で唯一、営業減益となった半導体事業

ただし、コングロマリット・ディスカウントの懸念が完全に消えたわけではない。たとえば半導体事業は画像センサーで世界シェアの半分を握り、稼ぎ頭となってきたが、市況に左右されがちで、常に巨額な投資がつきまとう。この点を懸念する投資家は多い。

実際、2021年3月期は6事業の中で唯一、営業利益は減益だった。米中貿易摩擦のあおりで得意先としてきた中国の華為技術(ファーウェイ)のスマートフォン向け画像センサーの出荷が大きく落ち込んだためで、2022年3月期も「収益回復はかなわない」(半導体事業を担うソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長)と2期連続の減益を見通す。

半導体事業への設備投資は2024年3月期までの中期計画で約7000億円に上り、前中期計画から約2割増やす。自動車向け画像センサーなどが巨額投資に見合った新たな成長分野に育て上げられるかが課題だ。