「やりたい」が成長の原動力に

コルクスタジオに集っているクリエイターはどんな人たちなのか。よほど先進的な考えの持ち主ばかりかと思われそうですが、そんなことはありません。漫画に携わって生きていきたいと願う、ごく普通の考えを持ったクリエイターの卵たち。

ただし全員、みずから「ここで成長したい」と意思を示して入ってきた人ばかりなのは確かです。『ドラゴン桜2』で東大特進クラスの早瀬と天野が、自分で手を挙げて教室に入ってきた生徒だったのと同じですが、自発的かどうかというのはけっこう重要なポイントになります。

受験にしても、かつては「東大へ行くのが絶対的に正解だ」と言ってよかったかもしれないけれど、今は何が正解かは誰にも言い当てられない時代。自分の中にしっかり「want」があるのならその世界に飛び込むといい、くらいまでしか言えなくなっている。

クリエイターと関わるときも同じです。本人のやりたいことと僕らのやりたいことが重なっているとは限らず、正解や成功のイメージも違うことは大いにあり得る。そこがズレていると、一緒に組んでもお互いにとって不幸なこととなる。

だから今は、どこかで才能ある若手を見つけてきて、コルクスタジオに入るのを勧めるということは一切していません。

「物語の力」で世界を変える

コルクスタジオを、世界最強のコンテンツ制作スタジオにしていくこと。それが今の僕が挑んでいる最大の課題です。

ウェブトゥーンの話をしましたが、コルクスタジオでは「縦スクロール・オールカラー」の漫画をどんどん手掛けています。紙のコミックではなく、売り上げは電子書籍でというスタンスです。

三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)

今後、このスタジオで生み出されるコンテンツは、従来の漫画という枠に収まらないものになるかもしれません。ただしどんなにかたちを変えても、それが物語の力を含んだものであることは確かです。物語の力をどう育み、広めるか。僕が焦点を合わせているのはそこに尽きます。

コルクが会社として掲げているミッションは、「物語の力で、一人一人の世界を変える」というものです。コルクスタジオをはじめ、コルクの活動のすべてはこのミッションのためにあります。

物語というと、ちょっとした暇つぶしに消費するものといったイメージかもしれませんが、そうじゃありません。これまで人の行動を変えるのはお金だったり権力だったり、有力な人からの支持だったりしたかもしれないけれど、物質的にある程度の満足を得る人が増えた今、人の行動をここからさらに変えていくのは物語の力くらいしかないと僕は思っています。

物語の力を最大限に膨らませて、世界中の人と共有する。そのための「場」として構想したコルクスタジオの活動を、どんどん加速させていきたいと思っています。

(構成=山内宏泰)
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