4月25日より日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系)がスタートする。東大合格請負漫画として一世を風靡した前作から15年の時を経て、なぜ原作漫画『ドラゴン桜2』の執筆に至ったのか、また同作のみならず『クロカン』『砂の栄冠』など、なぜその作品には心に刺さり、人の心を動かす「名言」が多いのか。漫画家・三田紀房氏が、セブン‐イレブン限定書籍『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)刊行に際し、その創作舞台裏を語る──。(第1回/全3回)

「決めセリフ」は考えない

ドラゴン桜』の作中には名言がたくさん出てくるので、よく人から「どうやってそんな次々と思いつくんですか?」とかれたりもする。

これはちょっと意外な問いだ。作者としては、意図的に名言を散りばめているつもりはないし、「一話につき一名言を必ず盛り込まねば」などとノルマを課しているわけでもないから。

ただし、だ。「強くてシンプルなメッセージを、できるだけわかりやすいかたちで届けよう」ということは、作品をつくるときいつも考えている。

東京大学・赤門
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メッセージを伝えるうえで、キャラクターに名セリフをズバリ言わせるというのは有効な手法の一つ。それで私の作品には、名言らしきセリフが頻出することとなるのだ。

発信の機微が生んだ「桜木建二」という唯一無二のキャラクター

感情の揺れをもたらす何かを、ちゃんと相手に届ける。それがものづくりの基本の「キ」だと、私は考えている。質や量を問わず、まずは確実に届けることが肝要。これは漫画などの表現活動に限ったことじゃなく、あらゆる仕事に通ずる考えのはず。

三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)
三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)

こちらが伝えたいものを、きちんと相手に受け取ってもらうためには、届ける内容をかなりシンプルにするべきだ。つくり手は制作プロセスまで丸ごと知っているから、「こんなに手間暇かけたんだから、きっと良さを分かってくれる」と甘えてしまいがち。

でも受け手は、いちいちあなたの意をんでくれるほどヒマじゃない。誰だって目の前の自分の生活に手一杯、それが人の世の常。市場にポッと出てきた一つの商品やサービスについて、いちいち深く考えたり思いを寄せたりしてくれるはずはない。

受け手、すなわち顧客にすこしでも振り向いてもらうには、できるだけシンプルな発信を心がけるしかない。その機微きびを知っているからこそ、『ドラゴン桜』の主人公・桜木建二の物言いは、あのように簡潔で明快になっている。