「オレが思ってること、よくぞ言ってくれた!」

相手に伝え届けるには、メッセージの内容を「当たり前のこと」に近づけるのもコツだ。

桜木は威勢がいいから、いつもユニークでスゴイことを言っているように思えるが、実はごくまっとうで当たり前の内容が多い。

例えば、『ドラゴン桜』パート1で桜木は、

「教育は詰め込みだ」

と断言する。

教育とは詰め込み、これは誰しも漠然と感じているところじゃないだろうか。昨今は「考える力」「プロセス重視の教育」などが唱えられ、皆が賛同しているように見えるが、実際はどうか。本音を言えば多くの人が、「基礎的なことを丸暗記してナンボだろ」「無理にでも頭に知識を詰め込んで、首尾よくテストをパスした者の勝ちだ」などと思っているのでは?

「考えが古い!」となじられるのが嫌で、声を上げないだけ。それが本当のところのような気がする。

現実と似て非なる漫画の中にいる桜木は、誰に忖度そんたくすることなく「ツベコベ言わず詰め込め!」と言い切ってしまう。すると読者は、

「オレが思ってること、よくぞ言ってくれた!」

と、うれしくなる。そこにキャラクターへの共感も生まれる。

斬新すぎる言葉は大して響かない

つまり、いくら誰も思いつかないような斬新なことを言っても、人の心には大して響かないのだ。それよりも、みんなが何となく思っているけど言葉にしていなかったこと。それをズバリ堂々と言ってくれたほうが、胸がすくだろう。

さらには、桜木が「言葉の使い手」として優れているのは、いつも表現がキャッチーであること。彼は、

「つべこべ言わず東大に行け!」

と言うが、ここはやはり、受験における日本のナンバーワンとしての東大の名を、ぜひとも挙げなくてはいけない。

現実的な問題を踏まえて「MARCHへ行け」「関関同立もいいぞ」「スタンフォードのほうが狙い目だ」と言っているようでは、メッセージがブレる。高校球児に向かって「お前ら国体に行け!」といくら叫んでもあまり響かず、「甲子園」という最もキャッチーな旗を掲げてこそ、人はついてくる。