圧倒的な「読みやすさ」と「スピード感」

なぜそんなに「縦スクロール・オールカラー」が受け入れられているのか。単純な話で、圧倒的に読みやすいから。スマホで最も見やすいかたちが、シンプルに追究された末に選ばれたのです。

韓国や中国のコンテンツメーカーはこの「世界標準」のフォーマットに、ケタ外れのスピードで大量に作品を投入しています。肌感覚としては、「これ!」という企画があったら、3カ月後には連載を始めている。

これまでの日本の漫画制作現場だったら、本気でいいものをつくろうと思えば、漫画家と企画をり上げていって1~2年後にようやく1話目が上がるかな、というところなのに……。

良しあしや好き嫌いを云々うんぬんする以前に、ウェブトゥーンが世界標準なのは事実なのだから、僕らもそのしくみの中で面白いものをつくる努力をしたほうがいい。冷静になればそう思うのはごく自然なことなのに、僕も正直なところ、そこの考えを改めるのに時間がかかってしまった。

日本には長くて厚い漫画文化の蓄積があるのだから、時代が変われど、これまでのやり方をアップデートすれば何とかなる。そんな発想にこだわり過ぎてしまったのが原因です。

コンテンツづくりの「しくみ」で勝負

現在は気持ちを切り替え、漫画をつくるクリエイターが集う「コルクスタジオ」の運営を核にえ、時代に則したコンテンツを安定供給するしくみづくりを進めているところです。

コルクスタジオに属しているクリエイターはすでに20~30人。お互いがコミュニケーションを密にとりながら、最高のものをつくろうとしている。もちろん皆「縦スクロール・オールカラー」で作品を描いています。

これまで日本の漫画コンテンツづくりを担っていたのは出版社ですが、そこでは“メディアのしくみをどうつくるか”に主眼が置かれていました。それに対して僕らは今、“コンテンツづくりのしくみをどう築くか”にフォーカスしています。

新しいしくみを模索するのだから、クリエイターの才能の生かし方も変わってきます。これまでの漫画界は歯を食いしばって努力を重ねてほかと競争し、生き残ったヤツだけが表現活動できるといった、根性論ベースの考え方があったと思う。

これからはもっと「持続可能」なかたちを目指すべきです。仲間内でコーチングし合ったり仕事をシェアしながら、誰も取り残さずものをつくっていく。そのほうがいいものを量産できるようになるはずだし、そうなるようなしくみをつくりたいということです。