民間に合わせるはずなのに「官優遇」の制度設計
国家公務員、地方公務員ともに65歳までの定年延長が実現するとなれば、民間企業の今後の定年延長に向けた人事制度の刷新に大きなインパクトを及ぼす。それだけにシニア層雇用促進の梃子になると、国家公務員法改正案を「70歳雇用時代」に向けて前向きに評価する向きもある。
しかし、国家公務員法改正案が示した内容は、民間企業のシニア層雇用の実態とあまりにもかけ離れており、「官優遇」の姿が明らかな制度設計となっている。
改正高齢者雇用安定法に基づく努力義務で「70歳雇用時代」などと言っても、現実的には、民間の定年は、まだ60歳が圧倒的だ。その中で官が先駆けるシニア層雇用の構図は、「官高民低」の歪みを生みかねない。
そもそも人事院勧告は国家公務員の給与や賞与などの待遇については民間の実績に基づき、それに合わせるのが基本原則とされているはずだ。
民間の65歳雇用確保の実態は給与の大幅ダウンと嘱託雇用
確かに、民間企業の場合も、現状で65歳までの雇用確保が法的に義務づけられている。ただ、60歳定年制が圧倒的多数を占める現実において、企業は、定年以降は嘱託社員として再雇用しているにすぎない。給与水準は現役時代から大幅にダウンし、半減さらにはそれ以下といった実態がある。
もちろん国家公務員の65歳定年延長と民間の嘱託再雇用とを単純に比較することは難しい。しかし、65歳定年延長によって60歳以降の国家公務員の給与を7割水準に据える法案を、「民間並み」とする人事院の主張は、あまりにも民間の実態とかけ離れている。明らかに「官優遇」との指摘がそのまま当てはまる。
その意味で、国家公務員法改正案で示された65歳定年への引き上げについての制度設計は基本を逸脱しているといわざるを得ない。
政府はこの点を「公務員制度が先行して高齢者雇用の環境を整備して、官が民間を主導する必要性がある」と正当化する。ただ、コロナ禍にあっても国家公務員の給与が目減りすることはなく、雇用も守られる。