マブバニ氏は著書『The New Asian Hemisphere』(2008年)の中で、「インターナショナル・コミュニティとはあくまで西洋の価値観をシェアすることである」と、西洋偏重の国際社会の在り方に疑問を呈している。
同著では、世界人口の12%に相当する西洋諸国の9億人が、残り56億人の運命を決定していること、世界人口の55%を占める東洋人がIMF(国際通貨基金)や世界銀行のボードメンバーにおいて不在であることが指摘されており、マブバニ氏は「21世紀の逆説は、世界で最も民主的な国々によって非民主的な世界秩序が続いていることだ」と述べている。
完全な民主主義の国は12%しかない
ここに面白い調査結果がある。英エコノミスト誌傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの「民主主義指数」(2019年)によると、167の国とエリアのうち、「完全な民主主義」は20、「欠陥のある民主主義」は55、「混合政治体制」は39、「独裁政治体制」は53だという。
興味深いのは、「完全な民主主義」は167カ国のうちわずか12%にとどまっているということだ。欧州諸国のほか、ニュージーランド、オーストラリア、カナダなど西洋の国々が占めているが、「完全な民主主義」のもとで生活する人口はわずか4.5%足らずだ。他方、中国に強く民主化を働きかけるその筆頭の米国は「欠陥のある民主主義」に分類されている。「欠陥のある民主主義」は韓国、日本、米国の順でランキングされている。
シンガポールは「混合政治体制」に属しているが、同国以外にもタイ、インドネシア、フィリピンがこれに属している。そして中国は「独裁政治体制」に属しており、ベトナム、ラオス、カンボジアもここに分類されている。いずれも私たち日本人が経済的結びつきを強くし、日頃から親しくしている国々だ。
白か黒ではなく、変化をとらえるべき
この調査結果が示唆するのは、確かに民主主義は「人類共通の理想」だとはいえ、その国の政治体制を一気に転換させることはできないということだ。歴史や風土、社会や経済の影響を受けながら、長期的に変化を遂げていくのだろう。一方、マブバニ氏は著書で次のように指摘している。
「西洋のマインドは不自由な中国の人々が幸福である可能性を考えることができない。西洋は自由をイデオロギー的に理解し、また自由は絶対的な美徳だと認識しており、“半自由”などとは馬鹿げていると思っている。自由は相対的であり、実際に多くの形態を取り得るという考えは、彼らにとって異質なのである。しかし、こんにちの中国人の生活を20~30年前と比較すると、彼らははるかに大きい自由に到達した」