先に経済、後から民主主義

「先ず其の家をととのう。其の家を斉えんと欲する者は、先ず其の身をおさむ。其の身を修めんと欲する者は、先ず其の心を正しくす。其の心を正しくせんと欲する者は、先ず其の意を誠にす。其の意を誠にせんと欲する者は、先ず其の知を致す。知を致すは物にいたるに在り」

家を治めることができれば、国を治めることもできる、そのためには個人の心のありようを正す必要があるという思想である。社会の秩序を維持するには、家が最小の単位となり、最小の単位である家庭の中の個人がそれぞれに道徳的義務を果たせば、国家もまた平和的に治めることができる、ということなのだろう。

シンガポールは、多くの国がモデルとして注目している国家だといわれている。リー・クアンユー公共政策大学院研究員で、ブルッキングス研究所研究員でもあるパラグ・カンナ氏は著書『アジアの世紀』で「ロシア、オマーン、ドバイ、中国を含め、こんにちアジア中の政府がシンガポール政府を詳しく研究している」と記している。

そのシンガポールでは、「民主主義より先に、広い範囲での教育や研修を通じて高度な技術を身につけた専門家が運営するテクノクラシー制度を導入したが、後に民主的な長所を結び付けるようになった」(同)という。先に自由や民主を輸入するのではなく、その土地にあった政治制度を培いながら、そこに民主を取り入れるという発想だ。アジアには、異なる文化を受け入れ、風土に合ったものに調和させる力があるということの示唆でもある。

母と子供の手
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「民主主義」を掲げる西洋中心社会の課題

現代社会では、民主主義が普遍的な価値を持つ制度だと考えられている。個人は平等であり、差別を受けることなく自らの幸福を自由に追求できる権利が尊重されている。人は平等だとする価値観は、それこそ西洋文化が与えてくれた人類普遍の崇高な価値観だといえる。

一方、この西洋の価値観が負っている課題を提起する人物がいる。シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策学院の院長でもあり、前国連駐シンガポール代表のキショール・マブバニ氏だ。マブバニ氏はインド系シンガポール人としてシンガポールで生まれた。シンガポールはアジアの多民族国家であり、英語を公用語とすることで国民が西洋の文化を吸収した東西文化が融合する国家でもある。

米国国務省や中国外交部のエリートたちと数年にわたり仕事をし、両国の長所短所を熟知した同氏のユニークな視点は、少なくとも米国と中国の2つの世界で注目されている。