なぜ香港で反中国デモが激化したのか。背景の1つに、中国人による不動産投資の結果、家を買えない香港人の急増がある。フリージャーナリストの姫田小夏氏は「地価が高騰し、地元民が街を追われるという事態が起きている。日本人はこの事実を教訓にするべきだ」と指摘する――。

※本稿は、姫田小夏『ポストコロナと中国の世界観 覇道を行く中国に揺れる世界と日本』(集広舎)の一部を再編集したものです。

ストリートマーケット香港
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香港デモ激化の背景に「中国マネー」

中国人は無類の不動産好きだ。日本においても2000年代後半以降、彼らによるさまざまな不動産取引が盛んに行われてきた。中国企業による億単位のホテル投資やオフィスビル投資、個人投資家によるワンルームマンションや民泊物件、極めつけはリゾート地や山林・水脈地にいたるまで、ありとあらゆる不動産が彼らのターゲットとなった。

2020年に入ってもその投資意欲は旺盛で、筆者にも何人かの中国の友人から「日本で不動産を買いたいのだけど」と相談が持ち掛けられた。

人口減少を最大の課題とする日本では、不動産業者が新たに住宅を分譲しても「即日完売」の札が下がるケースは実に少なくなった。中古市場でも値段を落とさなければ買い手がつかなくなる中で、一部の業界が購入意欲満々の中国からの投資に期待を寄せるのは無理からぬことだった。

しかし、ことはそんなに単純ではない。香港に目を向ければ、中国からの不動産投資が行き過ぎて高騰し、地元の庶民が住めなくなったという悲劇が起こっている。抗議デモがあれほど過激に発展したのは、中国マネーの流入が遠因だ。ここではその過程を振り返ってみたい。

リーマンショックの下落が「買い」だった

話は2000年代にさかのぼる。1997年7月の香港返還以降、中国では空前の「香港不動産投資ブーム」が到来し、芸能人や有名企業の経営者などが香港の不動産をこぞって買い求めた。しかし2009年、中国ではリーマンショックの影響を受け景気が落ち込んだ。政府はすぐさま4兆元(当時のレートで約64兆円)の財政出動を行ったのだが、このときのだぶついた一部の資金も香港の不動産投資に向かったといわれている。

香港不動産もリーマンショックの影響で下落したのだが、「このときがまさに“買い”でした」と、投資家の友人は語る。

「中国共産党幹部が香港に豪邸を構えている」――というまことしやかな噂も立った。かの香港紙「蘋果日報」(アップルデイリー)によれば、習近平国家主席も浅水湾(レパルスベイ)に6億4000万香港ドル、日本円にして約90億円相当の物件を所有しているという話だ。

しかし、資金源はいずれも極めて不透明だ。額に汗して稼げる金額ではない。共産党幹部にせよ政府官僚にせよ、利権を金に換え、膨大な資金をため込んだ疑念は払拭できない。