わずか0.2秒で発熱する「遠赤グラファイト」

筆者が千石の近年の動きに注目するのは、同社が自社ブランドを活用しながら、高度なモノづくりの能力を生かした高付加価値化に成功しはじめているからである。OEM企業によるブランディングへの挑戦の隘路を、千石はどのように乗り切ったか。

千石のアラジン・トースターには、特許技術の「遠赤外線グラファイトヒーター管」が搭載されていて、わずか0.2秒で発熱する。短時間かつ高温で焼き上げるため、外はカリカリと、中はモチモチのおいしいトーストを焼くことができる。

このグラファイトというヒーター管は、短時間で一気に高温となり、かつ発熱温度を最適にコントロールすることも容易である。水を効率よく暖めやすい波長を出すため、食材の加熱調理などに適している。人の体を温める場合にも適しており、トースターに搭載するまでは暖房機に使われていた。

「こんな高いトースターは売れない」

グラファイトの技術は、そもそもは国内の他社が研究を重ね、開発したものだった。千石がこの技術を入手したのは、2012年のことである。

優れた特性をもつグラファイトだが、難点は通常のヒーター管よりも生産コストが高く、高価格となることだった。一方でグラファイトのような強力な熱源を、いつ、どこで活用すれば、高価であることに見合う価値が生まれるかも見いだせていなかった。

グラファイト技術を開発した大手企業は、市場へのマッチングがうまくいかなかったことなどからこの技術を手放すことを決断した。そして千石が2012年にこの技術の権利を購入し、自社の暖房機などに採用して、ほそぼそと販売を続けていた。

千石は、モノづくりの好奇心に富んだ会社である、このグラファイト管を調理にも使えるのではないかと考え、パンを焼いてみたところ、うまく焼けた。とはいえグラファイト管は高価格であり、通常のトースターよりは当然値段が高くなる。

千石はトースターの反射版などに工夫を重ねることで、超短時間で高温を実現するグラファイト管の利点をうまく引き出し、大手企業にOEMで供給することを提案してみたが、断られた。課題はやはり価格であり、「こんなに高いトースターは売れない」といわれた。